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[13]全日本選手権リポート(下)

羽生への「逆風」

青嶋ひろの フリーライター

 全日本選手権優勝5回。不動のエース・高橋大輔は、「下手をしたら代表になれないかも?」というもやもやした思いを引きずったまま、ショートプログラムを滑ってしまったかもしれない。

 「ベストではなかったけれど、楽しく滑れました」と言いつつ、完璧に滑った羽生結弦に対し、4回転の回転不足もあった。1位に9.64もの点差をつけられ2位という結果を、エースはどう受け止めたのだろうか? 

 ショートからフリーにかけての一昼夜、彼の心を占めていたのは、「負けたくない!」という思いだったようだ。それも、余人が想像を絶するほどの悔しさを胸に、高橋大輔はフリーを滑ったのだ。

 「あの点差で……諦めてなかったのか!」

 ある若手コーチは、冒頭、2本の4回転を高橋が決めた時、そう思って唖然としたという。

拡大今シーズン、羽生結弦との激闘が続く高橋大輔

 「大ちゃんがここまで、負けず嫌いだったなんて……」

 ある国際ジャッジは、これまでのどの試合よりも剥き出しになった彼の情熱を見て、震える思いがしたという。

 「ショートでかなり点数をつけられたので、もう、思い切りやるしかない。そんな悔しさもあったと思います。9点も離されてしまったら、とにかく僕の出来る最高のパフォーマンスを、するしかないですから(笑)」

 スケート関係者も、報道陣も、ファンも。ここに集う人々は皆、高橋のことをよく知っている。知っているはずなのに、ここまで彼が必死になるとは、ここまで彼のスケートが赤裸々な感情で見る人を動かしてしまうとは、誰も想像できなかったのだ。この日初めて見たような、高橋大輔の透徹した意志。そして、とんでもなく美しい意地。

 「4回転も2本成功することができましたし、何より自分自身が思い切り滑ることができた。お客さんもよく反応してくださって、たくさんの声援を送って下さって……。やっとこれだけの演技ができました。ソチに向けて、ここが僕のスタート地点だな、と思います」

 ショートでは羽生結弦が、フリーでは高橋大輔が、考え得る限界を越えて見せた今大会。結果は、ショートプログラムの点差からフリーを逃げ切った羽生結弦の勝利。全日本選手権の歴史に残るだろう、壮絶な戦いだった。

 勢いのある18歳の羽生に、体力的なピークを越えた26歳の高橋が食らいつき、最後はエースの貫録を見せつけたのも素晴らしい。

 経験値も高く、世界チャンピオンの称号も持ち、サポートするチームの態勢も盤石。誰よりも完成されたスケーターである高橋に競り勝った羽生も凄まじい。

 高橋大輔、羽生結弦。今シーズンの世界選手権も、来シーズンのオリンピックでも、彼らが最も頂点に近い存在だ、と誰もが感じた。彼らふたりが本気で勝ちたいと思ったら、パトリック・チャン(カナダ)も敵ではないかもしれない、と。

 そんなふたりの戦いが、あと一年見られるというわくわくした状況の中……ひとつ心配なのは、彼らが余計な感情に振り回されることなく、きちんと戦えるかどうか、だ。

 羽生がここまで急成長したことで、彼に対する風当たりは、人々が思うより強い。 ・・・ログインして読む
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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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