山田菜の花(朝日新聞社文化事業部)
2013年02月07日
2月初旬、学生たちが企画した都内の写真展を訪れた。東日本大震災の被災者のポートレートが50枚ほど並ぶ。津波で土台しか残らなかった自宅前や、避難先の仮設住宅などで学生たちが撮影した。その際に聞き取った、発生直後から現在までの心情をまとめた文章も添えられている。
その中で、高校3年の女子生徒が語った言葉に思わず足を止めた。「テレビで報道される地震や津波被害の映像は生々しいものが映らない。実際の状況はもっとひどく、テレビは美化されている」。笑顔で写る彼女の胸の内に潜む、マスメディアへの拭いがたい不信感を突きつけられ、新聞社に勤める者の一人として被災地のために何をしてきたのだろうと自問せざるを得なかった。
私は9年間記者を経験した後、2010年4月に展覧会などを企画する現在の部署へ異動した。1年も経たないうちに東日本大震災が起きた。古巣の社会部へ1週間ほど応援に入ったが、取材をしても被害状況、特に福島第1原発で何が起きているのかが分からない。被災地に十分な情報が届けられない現状をもどかしく思った。
被災地のために今の自分が出来ることはないか。文化事業部に戻って悶々としていた3月末、同じ部署の先輩が「震災の報道写真展をやろう。募金を集めて被災地に贈ろうよ」と提案した。私を含む有志6人が集まり、CSR推進部とも協力。夜を徹して写真を選び、パネルやポスターを作り、説明文を書くなどした。
寝不足の頭を離れなかったのは、壊滅的な被害を受け物資も通信手段も絶たれた被災者が「私たちは生きている」「早く助けに来てくれ」と記者たちに託した伝言だ。被災者の叫びを紙面で読むたび、この思いを届けるために写真展をするんだ、と仲間で話し合った。わずか半月ほどの準備期間で、東京・有楽町で春の大型連休に開催へこぎつけた。
初日は開場前から数十人が列をなした。津波にのみ込まれた街並みや、がれきの前に座り込んで泣く女性のパネルに見入り、まぶたを覆う来場者の姿に、企画した私たちの目も潤んだ。
しばらくして同僚が「募金箱が大変だ。音がしない」と告げた。いぶかしく思って問うと「みんな小銭じゃなくてお札を入れてくださってるんだよ! だから音がしないんだよ!」。彼の目は真っ赤だった。写真展に込めた思いが伝わった気がして、私も声を上げて泣いた。
3・11から2年の節目にあたり、今年も震災報道写真展が愛知県高浜市を皮切りに始まった。朝日新聞社の記者らが被災地を中心に撮影した写真約60点を展示している。
確かに新聞をはじめとするマスメディアは「被災地の本当の姿」すべてを伝えきることはできない。それでも、震災を忘れず被災地に寄り添う気持ちをつなぐ、よすがになれれば――。今回の写真展に込めた願いは、メディアに不信の目を向けたあの女子高生への答えになっているだろうか。
《東日本大震災報道写真展 開催概要》
■愛知・高浜会場
2月2日(土)~2月28日(木)
高浜市やきものの里かわら美術館(愛知県高浜市青木町9-6-18)
午前9時~午後5時(最終日は午後2時まで)
月曜休館、ただし2月11日(月・祝)は開館、12日(火)は休館、入館無料
■札幌会場
2月9日(土)~2月21日(木)
紀伊國屋書店札幌本店(札幌市中央区北5上西5-7)
午前10時~午後9時(最終日は午後6時まで)
会期中無休、入場無料
■東京会場
3月1日(金)~3月13日(水)
午前11時~午後7時(最終日は午後4時まで)
有楽町朝日ギャラリー(東京都千代田区有楽町2-5-1有楽町マリオン11階)
会期中無休、入場無料
■名古屋会場(1)
3月2日(土)~3月29日(金)
名古屋第二赤十字病院 第3病棟1階ロビー(名古屋市昭和区妙見町2-9)
午前8時30分~午後5時(最終日は午後3時まで)
会期中無休、入場無料
■大阪会場
3月2日(土)~3月17日(日)
中之島フェスティバルタワー13階 朝日新聞大阪本社玄関前(大阪市北区中之島2-3-18)
会期中無休、入場無料
■福岡会場
3月28日(木)~4月8日(月)
アクロス福岡2階交流ギャラリー(福岡市中央区天神1-1-1)
午前10時~午後6時(最終日は午後3時まで)
会期中無休、入場無料
■名古屋会場(2)
4月16日(火)~5月12日(日)
愛知芸術文化センター地下2階アートプラザ前(名古屋市東区東桜1-13-2)
午前9時~午後10時
5月7日(火)休館、入場無料
▽問い合わせ
朝日新聞社CSR推進部 03-5540-7630(平日午前10時~午後6時)
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