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スポーツ団体は柔道界の問題点を共有すべきだ

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 「勝てば官軍」という。2012年のプロ野球は読売ジャイアンツのセ・リーグ優勝とその後の日本シリーズ制覇でシーズンを終了した。その結果、2011年シーズン末に起きた「鶴の一声」事件、及び、昨シーズン直前に浮上した監督の女性問題や新人選手の契約金に絡むスキャンダルがメディアの話題から消えてしまった。

 この現象は、勝ちさえすれば不祥事も大目にみられる好例と言えるだろう。ここから全く仮定の話になるのだが、女子柔道の日本代表がロンドン五輪で獲得した金メダルの数が2004年のアテネ五輪や2008年の北京五輪のそれを上回っていれば、柔道界の暴力やパワーハラスメントの問題が果たして公になっていただろうかということである。これはかなり疑問視せざるを得ない。

 彼女たちの訴えも、大阪の市立高校バスケットボール部主将の自殺の原因が体罰であったことから急に表面化したことを勘案すると、金メダルの数が全てに優先して、体罰がいつの間にか「愛の鞭」にすり替わった可能性が高い。恐ろしいことだが、メダルの数次第では、彼女たちはさらに監督やコーチの暴力に耐えなければならなかったかも知れない。

 日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が今回の不祥事を「氷山の一角」と表現しているように、柔道界のみならず、他のJOC加盟団体でも「メダル獲得のため」「強くなるため」「うまくなるため」との理由で暴力行為が日常茶飯事であった可能性がでてきた。JOCによる調査次第では、信じられないような事実が明らかになることもあり得る。

 それにしても、今回の暴力問題に関連して不可解なことが三つある。

(1)全日本柔道連盟の理事の役割

 理事の数は30人と聞く。大企業並みの役員数で、組織の規模の割に数が多い。30人もいて、なぜ、誰ひとりとして長年にわたっておこなわれてきた暴力を阻止する行動をとらなかったのだろうか。

 また、選手や選手と親しいOBから情報を得た後、彼らはなぜ事実関係の調査や対処策を話し合わなかったのだろうか。それとも、理事の間では暴力は勝つための当然の行為として認識されていたのだろうか。不思議で仕方がない。

(2)メディアの勇気不足

 五輪報道に携わる記者は多い。その中でも、日本のお家芸である柔道は伝統的にメダルの期待が高いので、関係する記者の数は他のスポーツに比較しても決して劣らないだろう。

 今回、暴力とパワーハラスメントを告発したのは15名だが、実際に被害にあった選手の数はその数倍に達すると推定される。また、彼女たちは2012年から暴力を受けている旨を少なからぬ人に相談し、柔道界内部では埒(らち)が明かないためにJOCに訴えたのだが、新聞・テレビ・雑誌の記者はたくさんいるにもかかわらず、彼らにはそんな情報が入らなかったのだろうか。

 聞くところによると、

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