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[14]四大陸選手権リポート(上)

ショートプログラムの「仕掛け」

青嶋ひろの フリーライター

 「ショートプログラムには、ずいぶん助けられているよ」

 そう苦笑いしたのは、全日本選手権後のブライアン・オーサーコーチだ。

 これまでの5戦中、3戦でショートプログラム首位に立ち、フリーでミスがあってもそのまま逃げ切る試合が多かった。何よりもインパクトが大きかったのは、スケートアメリカ、NHK杯と、2戦連続で叩きだした世界最高得点だろう。

 「あれは嬉しかったよ。僕も信じられないくらい興奮した!」

 手放しで喜ぶのは、振り付けを担当したジェフリー・バトルだ。新進気鋭の振付師であるバトルの作品がいかに優れていて、羽生結弦の個性にいかに巧くマッチしたかは、本連載5回目でもふれている。

 「僕のところにも、たくさんのおめでとうメールが来ていたよ。みんなが、『ユヅルのショートはすごかった』、って書いてきてくれて! 僕だって、彼の世界最高得点を、自分の手柄にしたかった(笑)。でもあれは、僕が彼にアドバイスしたことに対して、ユヅル自身が取り組んだ結果だ。彼が自分の個性をあそこまで氷の上で表現できなかったら、『パリの散歩道』はあんなに面白いものにはなかっただろう。彼みたいには、なかなかできない。僕は彼が誇らしいよ!」(バトル)

 元世界チャンピオンも手放しで賞賛する、今シーズンのショートプログラム。四大陸選手権では3つ目のジャンプ、3回転ルッツ-3回転トウで失敗したにもかかわらず、十分見応えのある滑りを披露してくれた。

 「ショートプログラムに、不安はないです。でも全日本の時点では、まだジャンプが跳べた、ってだけでした。今回は表情も気を配って作って、音楽の雰囲気も大事にして、とにかく全てに集中して行きたい」(羽生、四大陸選手権前のコメント)

 彼の大事にしたいという、「音楽の雰囲気」。これを彩るいくつもの仕掛けが、今年のショートプログラムにはある。

 まずはジャンプに入る前の複雑なステップ。特にトリプルアクセルを跳ぶ寸前の複雑なターンの連続などは、「難しいジャンプのテイクオフ」として加点対象になるだけでなく、見る人の目にも楽しく、プログラムのよいアクセサリーになっている。考案したのは、振付師バトルだ。

 「そう、彼のジャンプは素晴らしい。生まれつきのジャンプの才能があるんだから、これは生かさなくちゃと思ったんだ。特に一本足にのっかったトリプルアクセル! 選手時代の僕には到底できなかった技だよ。僕だって、できるならやって見せたかったのに(笑)。最初、そんな難しい跳び方全部ができなくてもいい、ひとつでも入れられればな、と思ったんだ。ところが彼は、全てを試して全部できるようになっちゃった! もう、やらない手はないよね(笑)。多くの選手は、一回試してできなかったらあきらめるのに、彼はがんばって全部できるようなってしまうんだから……だから彼のジャンプは、難しい跳び方だらけになっちゃった(笑)」(バトル)

 ジャンプをはじめスピンやステップなど、採点対象となるエレメンツ(要素)には、すべてに様々な工夫が織り込まれた。さらに直接加点対象とならないつなぎのパートにも、印象的な動きがたくさん散りばめられている。

NHK杯のエキシビションで

 四大陸選手権でも大きな喝采を浴びた、腰を低くして右足を折り、左足は延ばしてかかとで滑る動作。ここで彼が両手をまっすぐ前に突き出して客席にアピールする様は、ちょっと小癪(こしゃく)な彼のキャラクターによく合っていて、盛り上がりどころのひとつだ。この動き、「イナ・バウアー」のような呼び名がついていてもよさそうだが……。

 「そう、あれをなんて言うのか、僕も知らないんですよ。ジェフに聞いといてくださいよ!」(羽生)

 「僕も知らないよ(笑)。ある日ユヅルといろいろな動きを試していたら、ふたりともリンクのはじのほうまで来てしまった。じゃあ、ここから観客席に向かって何かしようか、ってことになったんだ。観客席の一番見やすい位置にいるのはジャッジだから、彼らをからかうような動きにしようか、と。もう、ほとんどエキシビションみたいな動きになったよね(笑)。作っていても楽しかった。ただ印象的なだけでなく、動きながらターンなども入れていて、『難しいことをやってますよ』とジャッジにもアピールできる動き、そんなものができたんだ」(バトル)

 作られた時から様々に用意されていた、魅力的なプログラムになるための仕掛け。それが、振りつけられて半年たった今、こなれた動きで見せられるようになったのだろう。

 それだけではなく興味深いのは、

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