川本裕司
2013年03月08日
一昨年3月の東京電力福島第一原発事故のあと枝野幸男官房長官(当時)が記者会見で、放射線量について「直ちに人体や健康に影響を与える数値ではない」と色んな解釈ができる表現を繰り返し、批判を招いた。2人の社会心理学者が一般にアンケートした結果、政府の意図と異なり、「浴び続ければ人体に影響が出る」という深刻な受け止め方が最も多かった。
岡本真一郎・愛知学院大教授と吉川肇子・慶応義塾大教授が「リスク・コミュニケーションからの推論」と題し、昨年9月の日本心理学会で発表した。2人は一昨年12月、全国20~50代の男女434人にインターネットで調査した。
アンケートでは、野菜が付着した放射能に関して「今回の放射線量は直ちに人体に被害を与えるものではない」と政府(官房長官)から発表があったと設定、事実である可能性はどの程度か選択させた。
可能性が高いという回答で平均して高かったのは「今の放射線量でも、浴び続ければ人体に影響が出てくる」。7段階評価で平均5・4(中間値は4)だった。二番目に高かった「今の放射線量なら浴び続けても大丈夫だが、放射線量が増えれば人体に影響が出る」は5・1だった。
一方、「今の放射線量を短時間浴びただけでも、時間が経つと人体に影響が出てくる」については4。「直ちに人体に影響を与えるものではない」というそのままの受け止め方は最も低く、3・8だった。
岡本教授は「『直ちに』という表現は推測が入って色んな受け取られ方をして、不安を与えかねない言い方だったといえる」と分析した。吉川教授は「緊急時には短くわかりやすいメッセージがいいと考えられがちだが、同じ言葉を繰り返すのでなく、ケースごとに詳しく伝えるべきだった」と指摘する。
同じ調査で、工場から有害ガスが排出される事故が起こり周辺の人に目の痛みやせきなどの被害が出たと設定。工場長のコメントとして「結果的には多くの人に迷惑をかけることになりました。謝罪します」と「結果的には」を抜いた場合に分け、当てはまる工場側の本心をそれぞれ推測させた。
原発事故翌月、菅直人首相(当時)が原発周辺に長期間住めないと話したという内閣官房参与(同)の発言について、枝野氏が否定したうえで「結果的に避難している皆さんに心配をかけることになり大変遺憾だ」と釈明したことを念頭に調査した。
「結果的には」が入った場合は「運が悪かった」と「自分たちが悪かったのではない」と推測させやすく、「心から謝罪したい」を本心と見る程度は低かった。
枝野氏は昨年5月にあった国会原発事故調査委員会の参考人招致で、「直ちに」の趣旨として、(1)基準値を
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