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[2]浅田真央、鈴木明子、村上佳菜子、史上最高のクォリティ

青嶋ひろの フリーライター

 3月12日、女子シングルの日本勢がメインリンクに姿を現したのは、午後8時。

 先月、四大陸選手権の表彰台を独占し、日本女子の強さを改めてアピールした3人が、そろって公式練習と報道陣への取材対応をこなした。

 この夜、特に目立っていたのは、鈴木明子の溌剌とした姿だ。すっかりおなじみになったフリープログラム「O(オー)」。いつも通りののびやかな、氷と戯れるようなスケーティングで、高橋大輔以上に見るものを安心させてくれる。

 公式練習での「O」、試合のように緊張感を持たずに見るこのプログラムは、こちらの心を穏やかになだめてくれるようだ。

拡大公式練習で調整する鈴木明子

 大舞台を前にしても動じることのない、鈴木明子素のままの滑りで、いいテンションで淡々と滑る「O」。既に納得出来る演技を何度も見せているプログラムだから、大きな変更もせず、そのままの形でブラッシュアップしてきたのだろう。

 しかし驚かされたのは後半、一気にスピードと迫力を増すパートだ。

 ただの公式練習の場、鈴木は本番そのままの勢いで、大きな盛り上がりを作りつつ滑り切ってしまったのだ。

 この日の公式練習は、日本勢だけでなくカナダ女子のケイトリン・オズモンドも参加しており、観客の多くはケイトリンを見に来ているはずだ。それでも鈴木の滑りに誰もが見入ってしまい、フィニッシュ後には本番さながらの怒涛のような拍手が起こる。

 この人こそ、心配なし、だ。2012年の銅メダリストの彼女だが、昨年以上に力を持った選手が多数参加している今大会、2年連続のメダル獲得は簡単ではない。彼女自身も「去年は表彰台を目標にしていたけれど、今年の方がメンバーは揃ってる。全力でやり切る、としか言えないです」と語った。でも、ひょっとしたら……大きな快挙をちょっと期待したくなる公式練習だった。

 「いつもなら一年も滑ってくると、『ああ、次のプログラム、どうしようかな』って気持ちになるんです。でも今年のフリーは、今でもまだまだ滑りたい気持ちがある。見ている方にも、『もっと見たいな』『ちょっと名残惜しいな』くらいに思われつつ、終われればいいな(笑)」(鈴木)

 全日本選手権2位の村上佳菜子も、フリーのプログラムを通して見せてくれた。鈴木明子の「O」、村上佳菜子の「タンゴメドレー」。ともにイタリア人、パスカーレ・カメレンゴの手による作品で、日本を代表する演じ手ふたりが同じ振付師の作品を競演しているのは面白い。

 彼女たちの2作品は、どちらもフィギュアスケートの枠を跳びだしそうなアーティスティックなプログラム。浅田真央の「白鳥の湖」も含め、日本女子3人は揃って素晴らしいフリーを完成しつつあり、表現面では今大会、日本の女子フィギュアスケート史上最高のクォリティで臨む、と言っていいのではないだろうか。

 しかし村上のフリー、ジャンプの揃った完璧な形で見せられたのは、全日本選手権の一度だけ。言いかえれば「まだ見たことのないタンゴ」を見せてくれる楽しみは、彼女がいちばん残してくれている。まだ18歳のパフォーマンスが人を惹きつける、その秘訣は、素晴らしく高い集中力にある。

 先々週開かれた世界ジュニア選手権で、中学3年生の宇野昌磨が緻密な表現に満ちたフリーをパーフェクトで滑り切り、大絶賛を浴びたが、彼は村上と同じ山田満知子門下生。「佳菜ちゃんがすごく集中するタイプだから、一緒に練習していて僕も影響を受けているのかもしれません」と語っていた。この日の公式練習でもさすがの集中力を発揮し、世界メダリスト浅田、鈴木に負けないランスルーを見せてくれた。

 「プログラムはショートもフリーも、名古屋の素子先生(名古屋の振付家、ダンサー平山素子氏)にもう一度見てもらったんです。近くを見るんじゃくて、遠くを見るようにすると、透き通った目線になるよ、とか。スローのところはもっと色っぽく見せたいから、目線や身体の動きで色気を出してみよう、とか。何回も何回も曲をかけたりして、すごくハードな練習を積んできました」(村上)

 浅田、鈴木、村上と、昨シーズンと同じメンバー。そしてリンクサイドに並ぶ佐藤信夫、久美子コーチ、山田満知子コーチ、長久保裕コーチという日本スケート界の誇る顔ぶれ。待ったなしの試合前だというのに、女子の日本チームにはなぜか安心感を覚えてしまう。

 それでもここは、世界選手権。彼女たち自身はそれどころではないのだろう。

 特に大変そうだったのは、浅田真央だ。今大会、これまで多くの大会で表彰台に並び立った韓国のキム・ヨナが帰ってきた。

 「真央VSヨナ」で煽り立てるメディアは多く、日本勢の練習時間中にヨナが会場に姿を現しただけで、何となく空気がざわついていた。

 さすがに直接言葉を交わす取材エリアで、ヨナの名前を出す記者はいなかったが、「小さなころから戦ってきた選手も戻ってきましたし」と、浅田の方から気を使ってライバルの話題を出すような雰囲気だった。

拡大公式練習の会場ですれ違うキム・ヨナ(金妍児)と浅田真央(手前)

 またキム・ヨナのロンドン入り後初めての取材機会も、大変なものだった。日本メディア、韓国メディアだけでなく、欧米メディアも押し寄せて、取材エリアはほとんど満員電車のよう。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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