成長を見せた無良崇人。羽生結弦はアクシデントとどう対峙するのか
2013年03月15日
「4回転……力が入り過ぎましたね。練習で調子が良かった分、緊張してしまって、完全にトウが付けない状態で踏み切ってしまった。試合でこんな失敗をするなんて、初めてです」
練習では常に動作の細かいところまで確認し、着氷率もどんどん上げてきていた。「絶対に跳ぶ!」という強い意思で作り上げてきたあの4回転を見せられなかったのは、ほんとうに残念だ。しかしSPの無良が素晴らしかったのは、4回転を失敗したあと、即座に気持ちを切り替えられたことだ。
「4回転があんな失敗だった分、『もう次!』って割り切って、吹っ切れて次に進めたんです。そこは4年前とは全然違ったかな」
もし無良崇人が単純なジャンパーだったら、跳べるはずの4回転を落としたことを、ひたすら悔いるばかりのコメントをしていただろう。でも今の彼は、違う。4回転以外の部分をあれだけ見せることがどれだけ難しく価値のあることかを知っているし、それを自分ができたことも知っている。
気持ちを吹っ切って跳んだ得意のトリプルアクセルは、わあっ! と客席が驚きの声を上げるほどの、大きさと力強さ。コンビネーションの3-3も問題なく、加点も着実に得た。この勢いで4回転も跳んでいたら、かなりの評価をもらえただろうに……と見ている側は悔しくなったが、本人は4回転の失敗を引きずらず、プログラムを捨てることも一切なかった。
彼によればプログラムの動きには、「柔らかい動き」と「力強い動き」があり、自分はもともと力強い動きが得意なタイプ、なのだそうだ。柔ではなく、剛。そんな彼がコロラドスプリングスの振付師、トム・ディクソンの指導で柔の動きを身につけ始めたのが、この2年のこと。
「でも柔らかな動きができるようになると、もともと自分がどんなふうに力強い動きをしていたのか、わからなくなちゃったんですよ!」などと苦笑いしていたのが、2012年の夏。そこからSPの大きな舞台まで、何度も試行錯誤を重ねてきたのだろう。
この夜の「マラゲーニャ」は、軽やかさと力強さが共存した、スケーターではなく踊り手によるマラゲーニャだった。噛みつかんばかりの気迫に満ちたポージングでドキッとさせ、舞うようなステップには男の色気を漂わせて。
「トウループの失敗以外は、自分でも満足しています。エレメンツにもひとつひとつに加点がついた。そうでなければ順位ももっと、落ちていたはずですよね」
一番跳びたかった4回転は、跳べなかった。でもそれ以外はすべて満足だという無良のコメントには、表現技術だけでなく、大きな気持ちの成長も感じられる。
3月15日のフリーに見せるのは、ショートプログラム以上に印象的な「将軍」。今シーズンの彼の躍進を象徴するプログラムが、待っている。
そして問題は、羽生結弦だ。
大きく転倒した4回転トウループ。見たことがないほど軸が斜めに曲がったトリプルルッツ。あそこまで磨きあげたのに、まったくいつもの彼らしさが出せなかったプログラム。どう見ても、普通の状態ではない。世界選手権の課題はフリーと言われてきたが、それ以前、世界最高得点までマークしたショートプログラムで、まさかの9位だ。
一部報道にあったように、膝の故障を抱えて試合に臨んだことは、オーサーコーチも認めている。しかし今回は羽生自身が、「フリーが終わるまで、そのことは言えない」と発言しているため、現時点でケガの詳細なレポートは控えたい。
彼は、いつだってそうだ。ジュニアのころからケガをしやすかったが、腰を痛めても足を痛めても、自分からは一切明かそうとはしない。
試合が良い結果で終わった後でさえ、そうだ。たとえば2012年の世界選手権。
「ケガは、自分のミスでしたものです。ケガを乗り越えてのメダル、なんて言われて、ヒーローになる資格なんてない」と、試合後でもなかなか事実を明かそうとしなかった。
その時は、重度の捻挫を抱えたまま出場し、フリーでパーフェクト。
しかし今回は脂汗をたらすほどの痛みのなか、
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