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[6]男子フリー

メダル争いも見えてきた無良崇人のポテンシャル

青嶋ひろの フリーライター

 試合前、とても心配していたのは無良崇人のメンタル面だった。当然、羽生結弦の膝の状態は知っているだろう。高橋大輔のジャンプの不調も、もちろん見ている。もしふたりがフリーで順位を大きく下げたら、ソチオリンピックの枠取りの重責は、3番手の自分にまわってくることになる――そのことに彼が、過度の緊張をしていないかどうか。

 「いや、その心配は、全然ありませんでした。大ちゃんはどう滑っても、しっかりと評価されるものを持っている。結弦だって、絶対にまとめてくると思ってました。あいつの強さが半端ないことは、知っていますから」

 チームメイトのことをここまで信用しているとは、うれしい驚きだ。日本男子チーム、いつの間にこんなに強い集団になっていたのか。

 そんななか、アスリートとしての強さを改めて見せた羽生結弦。彼とは対照的に、エンターテイナーとしてのポテンシャルに驚かせてくれた無良崇人のフリーだった。

 4回転の失敗については、ひとまず置いておこう。彼の代名詞である「男のジャンプ」を見せられなかったことは、やはり彼自身がいちばん悔しいだろうから。そこから、ショートプログラムと同じようにしっかり切り替え、4回転以外のすべてのジャンプを完璧に決めたこと。なかでもトリプルアクセルの華麗といえるほどの力強さを4年ぶりに世界に見せたことも、素晴らしかった。

 結果もフリー5位で、総合順位はショートプログラムから大きく上げて、8位。もし高橋が大きく順位を落としていたとしても、羽生と無良の合計順位でソチの3枠は獲得できていた。五輪前の世界選手権、3番手の枠を超えた立派な成績といえるだろう。

8位に入った無良崇人

 しかしフリーでの一番の驚きは、ジャンパーとして知られた無良が、彼だけの独創的な世界を氷上に作り上げられたことだ。

 彼の手の動きは、こんなに滑らかだったか。手のひら一枚の差し出し方が、こんなにも優しげだったか。

 ジャンプは跳躍そのものも美しいが、注目したいのは着氷してから次の要素に移るまでの所作。たとえばアクセルを跳んだ後にふわりとひざまずく、その動きがとても優雅なのだ。

 グランプリシリーズ・エリック杯(フランス大会)で優勝したときも、「SHOGUN」のプログラムは話題になったが、その時以上にひとつひとつの動きに、確固とした芯が生まれていたようだ。

 和の音楽に乗って、侍の魂を描くこのプログラム。実は音楽の作曲者も振付師も

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