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元NHKアナウンサー堀潤が一番やりたいこと

田中敏恵

田中敏恵 文筆家

 「メディアに対しての不信感や危機感から」

 4月1日付でNHKを退職、今、最も注目を集めるジャーナリストともいえる堀潤氏は、この世界に入ったきっかけをそう話した。

 「社会への興味を持ち始めたころ、テレビを賑わせていたのは、松本サリン事件や坂本弁護士一家殺害事件など、オウム真理教をめぐる一連の事件でした。重要参考人をさも犯人のように伝える報道と大冤罪事件、秘密情報の提供、こういった状況からメディアに対して不信感や危機感が湧いてきたんです。NHKを志望したのもそんなメディアを変えたい、という思いがあってのことでした」

 堀氏は2001年にNHK入局、岡山放送局を経て、『ニュースウォッチ9』のリポーター、『Bizスポ』のキャスターを務める。ツイッターでの発信も大きな支持を受け、注目を集めるようになった。

 「ツイッターをスタートさせたのは、2009年です。当時NHKでアカウントを持ち、つぶやいていたのはわずかでした。最初は日常での出来事を書いていたのですが、ツイッターをメディアとして意識し始めたのは、2011年に起きた“アラブの春”からですね」

 市民たちの力によって、国が変わろうとしている。堀氏は、アルジャジーラをはじめとする海外メディアや現地からのツイートを伝え続けた。歴史が今、まさに変わろうとしているというのに、日本のテレビではそれを扱おうとしなかった。

 「どうしてこのニュースを取り上げないのかと、BSの番組担当に話をしたこともあります。しかし、地上波で流していない話題をBSが独自に取り上げることができないという暗黙のルールにより、国際ニュースは日本での出来事にとって変わってしまっていたんです。これだけ世界が動いているにも関わらず、既存のメディアが非グローバルの中にいるというような状況でした」

 支配するものとされるもの。既得権益層とそれに抗おうとする人たち。世界で起きている物事の構図は、実は似ている。また世界の経済はその国独自の動きで成立するのではなく、相互との関係に大きく左右される。つまり自分の生活と世界の事象は繋がっているというのに、メディアの古参たちには、海外のニュースなんてお茶の間では興味など持たれない、という固定観念があったという。しかし、堀氏はそれに疑問を抱いていた。

 「かつて、銀座での街頭インタビューで、税金のことに関して話を聞いた時に、あるおばあさんは“法人税が一番気にかかっている”と答えたんです。自分たちは消費税の税率が最大の関心だと思い込んでいたけれど、会社の利益を上げなければ、生活は改善されないとおばあさんは答えました。つまり、メディアが予想していたことと、市民の考えには隔たりがあった。言い換えれば、市民感覚を決めつけているところが発信側にあると感じたんです」

 メディアを変えるためにNHKに入局し、既存のシステムを変えていこうとした堀氏は、リベラルな視点と考えのもと、局の批判もツイッターを通して発言していた。そんな姿勢は多くの人に共感を受け、ネット上でも大きな話題となった。と同時に、NHKというナショナルメディアへのイメージを大きく変えたのではないだろうか。それは言いすぎかもしれない。だが、NHKという日本のメディアのトップに籍をおく発信者に、市民と同じような思いを持つ人物がいるのだ、という印象は少なくとも与えたはずだ。市民との距離の近しさは、ジャーナリスト堀潤の最大の個性であり武器ともいっていい。NHKを退職するというニュースが流れた後、フェイスブックでは、堀氏の過去のつぶやきのアーカイブが紹介され、多くの人がそれに共感し、「いいね」をクリックしている。

●競争ではなく協働という戦いを

 堀氏がフリーランスのジャーナリストとして使命を感じていること。それは発信者として大きな影響力を持つ、といった個人としての達成ではなく、市民と大手既存メディアをつなげる橋のような役割であるという。

 「『8bit News』というNPO法人を主宰し、市民参加型のメディアを立ち上げました。ここでは、

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筆者

田中敏恵

田中敏恵(たなか・としえ) 文筆家

1969年生まれ。文芸誌編集を経てフリーランスに。文芸、食、旅、建築などライフスタイル分野の記事や、国内外で活躍する著名人たちへのインタビューを雑誌や新聞に寄稿。2006年より取材を開始したブータン王国に関する講演活動も行う。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか~心の中に龍を育てる王国のすべて』、共著に『未踏 あら輝~日本一予約の取れない鮨屋』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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