2013年04月16日
しかし実際は、思っていたよりもはるかにスマートなやり方だった。
2010年師走。年の瀬が近づくと、毎年、帰省中のOBたちがちらほらとグラウンドに顔を出すようになる。そして後輩たちと一緒に汗を流していく。
我喜屋優がグラウンドに姿を見せると、OBたちがあいさつをしに我喜屋の元に走り寄ってきた。そんなときの我喜屋の対応の仕方はおおよそこんな感じだ。
「こなくていい!」と追い返す。
「何しにきたの?」とニヤリと笑う。
間違っても「おう、久しぶりだな。元気か?」などとは言わない。ちなみに取材者である私に対していちばん多かったのは、「まだいたの?」。
だが、これらのリアクションは、我喜屋なりの愛情表現だ。私も、認知されているのだと嬉しい気持ちになったことはあっても、嫌な気持ちになったことは一度もない。
だがその日、新崎と、新崎の同級生で「1番・センター」を任されていた小浜健太朗が我喜屋の元へ駆け寄ったときは、発する空気がいつもと少し違っていた。
我喜屋は、短く鋭い口調で言った。
「何だ、そのヒゲは」
新崎は、遠目でもはっきりとわかるぐらい口元に豊かに髭を蓄えていた。今風だが、品位を欠いているといえば欠いていた。
思わぬ形で機先を制された新崎と小浜は、面食らったように互いに顔を見合わせる。いつものジョークなのか、それとも本気なのか、判断しかねていた。
それでも我喜屋は、そんな二人に何の助け船も出さず、新崎の顔とグラウンドを交互ににらみつけている。
二人は結局、我喜屋の真意をはかり切れず、戸惑っているような笑いを見せたまま、すごすごと引き下がった。直後、小浜はこうこぼしていた。
「監督さん、わかりずらいんですよね……。あのあと、二人で『監督さん、怖くなってない?』って。僕らの頃は、ここまで何回も集合させることはなかったですしね。ノックのときに2、3回集めるぐらいで」
練習中、我喜屋は選手たちをよく集める。感じたことがあったら、その思いが熱を持っているうちに伝えるためだ。
「監督は短気じゃないとダメ。思ったことやってなかったら、頭にくるぐらいじゃないと。気が長いと、なあなあで終わっちゃう。普通の監督は、1時間練習やったら、1時間後に確認するでしょ。それじゃあ、ついてこれない選手、いっぱいいるよ。問題が出てきたら10分ごとでもいいから、外野も内野も全部集めてみんなで確認し合うの。そうやってみんなでゴールしなければダメさ」
この日の我喜屋は、動きが緩慢な選手たちに苛立っていた。トンボのかけ方、投手陣の練習方法、バッティング練習の際の選手たちのスイングの弱さ。そのため、それらが目につくたび、選手を集め、注文をつけた。
「迫力のない練習は、こうやって一つずつ潰していかなきゃダメなんだよ」
我喜屋の表情がいつも以上に険しかったこともあり、何度目かの集合のとき、どんな話をしているのだろうと、恐る恐る近づいて耳を傾けようとしたのだが「ちょっと!」と手で制された。
だが、私の中では、それらはいつもの我喜屋だ。いつも以上に気が立っていたかもしれないが、それも特別なことではない。
2007年時の3年生に話を聞き、もっとも意外だったのは、
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