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ほんとうに引退したんだ松井秀喜選手

薄雲鈴代

薄雲鈴代 ライター

 なんとしても球場に足を運んで、見るべき価値のあるプレーがある。

 かつての王、長嶋のホームランがそれであった。王選手のホームランが滞空時間の長い大きな軌跡を描くのに対して、長嶋は弾丸のようなホームランを放つ。

 松井秀喜のホームランは、長嶋の系譜である。飛距離のある豪快で超人的な打撃のできる野球選手で、これまた球場で必見のプレーをみせた。

 テレビを通しての野球観戦で事足りる試合が多いなか、高画質の3Dテレビでも決して伝えることができない臨場感、球場で打球のゆくえを追わなければわからない、生の魅力が松井選手の野球にはある。

 大リーグで活躍するということで、よくイチロー選手と松井選手が並んで取り沙汰されるが、野球の醍醐味という点では、イチロー選手のそれは正直、物足りない。胸のすくホームランでない分、あきらめない守備の徹底ぶりやヒットの本数や盗塁の妙味でイチローは自身の野球を構築する。さらに禅僧のような鍛錬ぶりや記録の数字が後付けされて、われらがイチローは「凄いな~」となる。それとは対照的に、天性の才能でダイナミックな野球ができるのが松井選手である。

 名優のひと声を拝聴するためにわざわざ舞台を観に出かけるように、松井のホームランは、球場へぜひとも観戦しにいく値打ちがあった。そういうスター性のある野球選手は、日本において稀である。そこには球団の好き嫌いを超越した絶対的存在感がある。それが往年の長嶋茂雄であり、松井秀喜である。それは安倍首相がはからずもいった「アンチ巨人であっても、長嶋選手の動向には手に汗握って注目した」という、普遍的な魅力に溢れている。

 その長嶋茂雄と松井秀喜が、国民栄誉賞を受賞した。グラウンドに立つ長嶋茂雄の姿を目にし、感涙に咽び泣くファンで球場内は沸いたが、何よりもここではじめて、松井選手は引退したのだと痛感した。松井選手においては、国民栄誉賞を同時受賞というよりは、長嶋茂雄をさりげなく介添えしながらの引退セレモニーだった。

 昨年末、松井選手引退のニュースを聞いたものの、

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筆者

薄雲鈴代

薄雲鈴代(うすぐも・すずよ) ライター

京都府生まれ。立命館大学在学中から「文珍のアクセス塾」(毎日放送)などに出演、映画雑誌「浪漫工房」のライターとして三船敏郎、勝新太郎、津川雅彦らに取材し執筆。京都在住で日本文化、京の歳時記についての記事多数。京都外国語専門学校で「京都学」を教える。著書に『歩いて検定京都学』『姫君たちの京都案内-『源氏物語』と恋の舞台』『ゆかりの地をたずねて 新撰組 旅のハンドブック』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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