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地方空港の民営化に利用できるプロスポーツ経営の手法

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 2005年末、東北楽天イーグルス(楽天)がプロ野球(NPB)界に参入後初めての決算を公表した。発表前は誰もが赤字を予想し、その赤字額がどの程度なのかが、関心の的だった。しかし、楽天は予想に反して営業黒字を達成していた。球界に衝撃が走った。なぜなら、球界は一般企業と異なり、赤字が当たり前、そして赤字は親会社が補填してくれるもの、というのが球界関係者の常識だったからだ。

 後日、楽天首脳から「普通の企業と同じことをしたら営業利益を出せた」と聞いた。スポーツ経営に携わると分かることだが、プロスポーツの経営手法は90%近く一般企業と同じであり、まして、映画・音楽・テーマパークなどのエンターテイメント関連企業との経営比較になると、その手法は95%以上類似している。

 例えば、筆者が知る限り、アメリカでプロスポーツ史上初となるNational League創設を牽引した天才経営者のウイリアム・ハルバートのリーグ経営理念は、同時代にスタンダード石油会社を設立したジョン・ロックフェラーの考えとほぼ同じであった。また、ハルバートが導入した「フランチャイズ」の概念は当時の経営者たちが利益の最大化を求めて考案した「Pool」や「Trust」の制度が下敷きになっている。1962年、アメリカンフットボール(NFL)によるプロリーグ初のテレビ放送独占契約も、テレビの家庭内普及と日曜日午後の団欒の習わしがなければ実現していなかった。

 ことほどさように、球界の経営も一般企業の経営やファンの生活慣習と大きく乖離するものではない。当然、逆もしかりである。

 別の言い方をすると、NPBは他の産業や企業が成功した経営手法を積極的に取り入れるべきであり、一般企業及び国や地方自治体もプロスポーツの経営手法の中に導入可能な部分が多々あることを知っておくべきではないだろうか。

 例えば、滑走路から空港ビルに至る空港敷地内商業スペースの民営化は格好の応用問題になりそうだ。国土交通省は、国や自治体が管理する93の空港の滑走路や空港ビルを数十年間運営する権利を企業に売却できるようにする方針だそうだ。この民営化を進めるにあたってプロスポーツ界で普通に活用されている命名権とスポンサーシップを利用するのは価値がある。

 国交省によれば、国が管理する26空港のうち、24空港が営業赤字、自治体が管理する65空港も多くは赤字だ。国交省は過去の慣例に従い、赤字空港のビル管理権を一つ一つ売却する予定だが、常識的に考えても赤字の権利をすんなり購入する企業は限られる。

 しかも、全ての赤字空港の権利を売却し終わるまでに気が遠くなるほどの時間がかかると予想される。国家財政の立て直しを最優先すべき時に、そんな悠長なことでは困る。士族の商法的発想を脱皮しなければならない。

 国交省や地方自治体が、狭い日本に都道府県数の倍になる93もの空港を造ったのも、国民の利便性や地域の経済活性化など表向きの理由のほかに、官僚たちの天下り先の確保があったはずだ。

 だが、今は国民の多くが裕福で国家財政も潤沢であった過去の「Good Days」とは明らかに異なる。従って、筆者は、黒字の空港も含めた93の空港の権利を公開入札の下で一括売却すべきと考える。

 なぜか。これは買い手の立場になれば分かりやすい。例えば、米国メジャーリーグ(MLB)のように30球団の権利を一括管理する方法とNPBのように12球団が個別に権利処理するのとではどちらが効率的で収入が多くなるのだろうか。誰もが知っているように、MLBは一部の球団を除き多くが黒字、一方のNPBは一部を除き大半の球団が赤字。このことからも一括売却に理があるのは明白だ。

 過去、この種の売買には必ず功名を立てたがる政治家が介入した。身近な例に「かんぽの宿」の一括売却失敗がある。総務省が所管するかんぽの宿事業は、11の施設は黒字だったが、他の施設が赤字のために事業全体で年間約40億円の赤字を垂れ流していた。そこで、一括して売却することになり、2009年4月、買い手を公表したが、当時の担当大臣が売買契約に介入して、契約を破棄してしまった。

 この例を教訓として、国交省は赤字垂れ流しを継続するような空港売却をしてはいけないのである。

 それでは、一括売却の下で買い手はいかなるメリットを得ることができるだろうか。買い手のメリットが大きければ、公開入札に参加する買い手の数が増えて売却額が上昇することは間違いない。筆者が思い付くだけでも買い手に3つの利点がある。

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