メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

やりすぎ!球審を買って出る安倍首相

薄雲鈴代

薄雲鈴代 ライター

 原辰徳監督の凄まじい形相に、驚いた。

 去る5月5日に行われた国民栄誉賞表彰式後の始球式のことである。東京ドームのグラウンドには、投手をつとめる松井秀喜、バッターボックスには長嶋茂雄、原辰徳が捕手として構えたそのとき。原監督はキャッチャーマスクこそしていないものの、松井氏が投げたのは山なりのボールで、恐怖を感じるような剛速球ではなかったはずだ。後のインタビューでも原監督は、無事キャッチしたことに深く安堵、自負されていたが、この緊迫感は何なのだろうと不思議に思ったものだ。

 その元凶は、球審をつとめた安倍首相にあった。

 球審としてキャッチャーの背後に立つ安倍首相を気づかって、事前に様々な配慮がなされていた。最たるものは、長嶋氏に空振りするよう要請までしていた。振ったバットやボールが、球審に当たって怪我をさせては大変なことになるからである。

 国民は長嶋氏の晴れ舞台に心躍らせ、「もしやミスターは打ってくれるのでは」と内心期待に胸を膨らませているというのに、それを裏で押さえ付け堰き止めているとは、なんとも本末転倒。長嶋氏もしぶしぶ承諾したと報道されていたが、ここ一番というドラマチックな場面では劇的なパフォーマンスを魅せるのが長嶋氏の真骨頂である。

 当然、打って出る長嶋氏の心意気を、傍で一番わかっていたのが原監督であったと思う。

 左手による大きなスイングを気にしつつ、松井氏のボールを、身体を張って受け止めたときの原監督の顔が、なんともお気の毒である。

 国民栄誉賞が、時の首相の人気取りであることは十二分に承知している。首相官邸での表彰式で充分なところを、なにゆえ球場にまでしゃしゃり出てこなければいけなかったのか。いや、長嶋氏に敬意を表して、球場で表彰するのはよかったと思う。しかし球審に扮してグラウンドに登場するのはいかがなものか。首相が登場することで、いらぬ気遣いを現場に強いたのは確かだ。

 もし国民栄誉賞を讃える宴にしたかったのならば、長嶋氏と松井氏に加え、国民栄誉賞の第一号である王貞治氏を球審に、同じく国民栄誉賞を受賞した衣笠祥雄氏をキャッチャーに盛り上げればよかったのだ。(連続試合出場世界新記録を達成して国民栄誉賞に輝いた鉄人衣笠氏は、もともと捕手だったのでぴったりはまる)

 それなのに、長嶋茂雄氏をダシにして、

・・・ログインして読む
(残り:約495文字/本文:約1462文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

薄雲鈴代

薄雲鈴代(うすぐも・すずよ) ライター

京都府生まれ。立命館大学在学中から「文珍のアクセス塾」(毎日放送)などに出演、映画雑誌「浪漫工房」のライターとして三船敏郎、勝新太郎、津川雅彦らに取材し執筆。京都在住で日本文化、京の歳時記についての記事多数。京都外国語専門学校で「京都学」を教える。著書に『歩いて検定京都学』『姫君たちの京都案内-『源氏物語』と恋の舞台』『ゆかりの地をたずねて 新撰組 旅のハンドブック』。

薄雲鈴代の記事

もっと見る