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「統一球」問題――不可解なNPB事務局と「飾り」のコミッショナー

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 日本野球機構(NPB)の統治能力に疑問符が付いた。6月12日、統一球の反発力が今シーズンから変更されていたことが明らかになったからだ。

 シーズン開始から2カ月半、シーズンをほぼ3分の1消化した時点での突然の公表に、何も聞かされていなかった選手はもとより、ファンをはじめとするNPBのステークホルダーが一様に驚き、そして、NPB事務局の隠蔽体質に不信を募らせることになった。

 加藤良三コミッショナーの会見を踏まえ、スポーツ経営の観点から、今回の統一球の問題を分析する。選手やファンの立場からの感情論を加えると多くの論点を挙げることが出来るが、ここでは問題点を三つに絞ることにする。

(1)コミッショナーの位置

 日本のコミッショナーは「権限」がないと言われる。2004年の選手会によるストライキに至るまでの期間、幾度となくコミッショナーの権限が論じられた。ストライキ後の球界改革論議の折も、コミッショナーの役割が議題にあがった。だが、球界の刷新が進まなかったように、コミッショナーの球界全体における権限・機能・役割も不確定・不透明のまま今日に至っている。

 しかし、本当に日本のコミッショナーには「権限」がないのだろうか。

 実は、米国4大プロリーグのコミッショナーの位置もNPBのコミッショナーと大差ない。なぜなら、リーグ内の裁判官的役割を除き、米国プロリーグの最終決定機関はコミッショナーではなく、オーナー会議であるからだ。コミッショナー事務局はリーグや球団の企業(資産)価値を上げるために種々の提案をオーナー会議に上程し、オーナー会議の承認の下に、案件の実行・実現に向けて粛々と実務をこなす。

 球団経営者(オーナー)が球団を保有する目的は、会社や株の保有と同じで、球団を安く買収して一定期間を経て高値で売却することにあるので、リーグ全体の安定的統治と共にリーグ全体の収入増加と経費削減を果たすことが重要となる。また、コミッショナーはリーグ組織のChief Executive Officerを名乗っている。彼らは企業における最高執行役員、いわゆる会長なのだ。

 従って、彼らは(1)リーダーシップ(2)最終意思決定(3)ステークホルダーに対する説明責任(スポークスマン)、という機能を発揮しなければならない。

 そのため、オーナーの意を体して期待通りの業績を残すコミッショナーはオーナーに喜ばれ、自ずと在任期間が長くなる。2013年2月末に退任したバスケットボール(NBA)のデビッド・スターン氏は1984年以来、29年という長期の在任期間を勤めたし、メジャーリーグ(MLB)のバド・セリグ氏は実質1992年から、また、アイスホッケー(NHL)のゲーリー・ベットマン氏は1993年からコミッショナー職に就いている。

 NPBに目を転じる。オーナーたちは加藤コミッショナーにリーグ全体の統治とリーグに関わる説明責任については任せているものの、肝心のリーグと球団の資産価値向上に関与することを許していない。NPBのコミッショナーは「提案が出来ない、あるいは、提案をしない」ので、言わば、「飾り」の位置に付かされていると言えるだろう。

 ところが、今回の記者会見で加藤氏が統一球の反発力変更を「聞いていなかった」と驚くべき発言をした。組織のトップには常に最新かつ正確な情報が入ってこなければならない。トップは説明責任があるからだ。加藤氏が「聞いていない」ことは、コミッショナー事務局の内部で、スタッフの職務権限・仕事の範疇(Job Assignment)とコミュニケーションのルートが混乱していることを暗示している。

 このことは、事務局内でも加藤氏が「飾り」になっていたことを示唆していないか。そうであれば、加藤氏はリーグ全体と事務局の二重の「飾り」だったことになる。彼が悲劇を通り越して喜劇の主役を演じていたようで、気の毒としか言いようがない。

(2)記録の継続性

 スポーツの世界は、勝負はもちろんだが記録更新にも注目が集まる。プロリーグも含めてスポーツ競技は、世界・大陸・国レベルで記録が残される。そのために、フィールドの上では過去・現在・未来を通じて、公平(fair)な条件の下で競技・試合がおこなわれなければならない。

 薬物使用が禁止されるのは、この点で不正(unfair)な行為だからだ。薬物の力を借りて達成された新記録が正当性を持たない理由がここにある。当然のことながら、ペナントレースの結果と共に選手たちが作り出す種々の記録も永久に保存されている。中には半永久的に破られそうにない大記録も含まれる。

 ボールの反発力が記録を左右する一つであることはNPBの仕事に携わる人であれば常識である。もし、加藤氏の発言通り、事務局長と担当者の合計3人が統一球の反発力を変更しながらその事実を伏せていたならば、 ・・・ログインして読む
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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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