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国谷キャスターの縁で実現した尊厳の芸術展と作品集

川本裕司 朝日新聞記者

 1942年から46年まで米国の強制収容所にいた12万人余りの日系アメリカ人が手がけた工芸品や絵画などの作品集の翻訳本「尊厳の芸術」がNHK出版から刊行された。監訳者の国谷裕子さんがふとした縁で出会った原作を目にしたことで、キャスターをつとめるNHKの番組「クローズアップ」の企画が生まれ、日本での展覧会も実現した。作品集から伝わってくるのは本の副題となっている「強制収容所で紡がれた日本の心」だ。
 「尊厳の芸術」の著者は日系アメリカ人3世のデルフィン・ヒラスナさん。両親は強制収容所に入っていた。母親が亡くなったあとの2000年、両親の物置小屋にあった箱から木製の小さな鳥のブローチを見つけたことが執筆のきっかけとなった。

 大判の作品集にはカラーで美術作品や工芸品が掲載されている。

 材料は廃材置き場にあった木の切れ端、砂の中から見つけた釘のほか、タマネギが入っていた袋をほぐしたひもなど様々だ。ただい収容所には美術教室があり、風景画を描く姿を収めた写真も残されている。

 工夫を凝らし装飾を施した杖、廃材をつかい名字を漢字で記した表札、葉やひもでつくったかごといった実用的なものから、貝殻などを用いたブローチとコサージュ、動物や鳥の木彫り、木や編み糸を素材にした三味線まで。制約のある暮らしの中でよく作られたものと感心させられる品々が並ぶ。

 オークの廃材から出来上がった家具の小引き出しの精巧さを目の当たりにして浮かび上がるのは、過酷な環境下でも完成度の高い品物づくりに励む日本人の気質だ。
 2010年7月、ワシントンのスミソニアン博物館で開かれた強制収容所で日系アメリカ人がつくった工芸品などの展覧会の名前は「The Art of Gaman(我慢の芸術)」だった。収容所の経験者は子どもや孫が米国に反感を持ってほしくないと、つらい体験を伝えず、作ったものも見せないでいたという。
 約70年前に生み出された作品が日本でよみがえる契機は、ささいなことだった。

 国谷さんがときどきのぞくご近所さんの猫の日常を描くブログに、「The Art of Gaman」の話題が書かれていた。「一つひとつの作品の思いが強すぎてとても一度には見られません」「どんな状況にあっても美しいものを作ろうとする人間のすばらしさ、切なさを感じました」と綴られていた。展覧会場で購入したという本をご近所さんから借り、その日のうちに、「クローズアップ現代」の編集長に、

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞記者

朝日新聞記者。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを歴任。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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