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疑問だらけの元プロ野球選手への「規制緩和」

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 長年の懸案事項であったプロ野球選手のセカンド・キャリアへの道が大きく前進した。日本学生野球協会(学生協会)の理事会で、元プロ選手が高校野球の指導者になる条件緩和が承認されたからだ。

 それによると、(1)体罰の禁止など8講座を設定(2)2日間の研修(3)1万円の受講料(4)全講座修了者に認証番号を交付(5)届けに応じて各都道府県高校野球連盟(高野連)のホームページに「学生野球適性審査認定者」として掲載されること、が条件になっている。そしてプロ側(NPB)が別途設ける研修を受講した後に、上記の学生協会の研修を受ければ、指導者の要件を満たすことになった。

 元プロ選手の高校や大学での指導機会が広がることは大賛成だ。学生協会のNPBへの歩み寄りを高く評価したい。元プロ選手にとっても大変喜ばしいことに違いない。

 しかし、学生協会とNPBが定めた規制緩和を冷静、沈着に分析してみると、何となく釈然としない。ここでは、疑問点を3つ指摘しておきたい。

(1)そもそもプロの選手にセカンド・キャリアの斡旋が必要なのか

 NPBの球団に毎年約70名(育成選手を加えると約80名)が入団する。彼らと同じ年に誕生した同級生(同期)は約100万人。その中で最も運動能力に長けたエリート中のエリートがプロ野球選手の約80名なのだ。

 そんな彼らにセカンド・キャリアの斡旋が必要だと言うこと自体、NPBに所属する選手の給与システムに歪みがあることにならないだろうか。すなわち、NPBの球団はエリート中のエリートに相応しい年俸を払っていないことを示唆していないか。

 また、選手たちも球団の年俸支払い能力を熟知の上で入団しているのだから、セカンド・キャリアは自分自身で解決すべきであって、他人に頼るのはいかがなものかと言わざるを得ない。

 実際、野球選手の年俸はグラウンドでの活躍に応じて支払われる。その結果、選手間に大きな格差が生じる。プロの平均年俸(出来高は除外)は約3700万円。そして、彼らの平均現役期間は約10年。従って、平均年俸総額は約3億7000万円となる。これに入団時の契約金(最高1億円、平均5000万円程度)が加算されるので、平均生涯年俸は4億円を超える。サラリーマンで生涯年俸が4億円を超えるのは一流企業に勤める一握りの社員に限定される。

 その意味では、運用さえ間違わなければ、野球選手が金銭的に困ることはありえない。特に、1軍登録選手(40名)のセカンド・キャリアについては本人に任せてもよいのではないだろうか。

 問題は、1軍登録期間が短かった、または、1軍に登録されたことのない選手たちに収斂することになる。そんな彼らが今回の施策の対象になる。しかし、その前に、NPBは選手の最低年俸額を引き上げることを検討するべきだ。

 また、選手会は選手たちが取得する契約金の一部に年俸の一部を加える年金貯蓄制度を設けて、選手引退後の生活資金に回せる後払い制度(Differed Payment)を構築すべきではないだろうか。後述する課題と合わせると、高校の監督になる前に、元選手たちもやることがたくさんあるような気がする。

(2)規制緩和は高校野球の戦力格差を助長するのではないか

 元来、アマチュアリズム遵守の方針とは矛盾するが、高野連は私学の経営を保護するために「特待生」の制度を認めている。特待生制度は明らかに商業主義にほかならない。学生の越境入学を促し、不公平感を醸成することも明白だ。

 しかし、今回の元プロ選手に対する規制緩和は特待生を擁する私学校と

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