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 株式公開買い付け(TOB)から株主総会での委任状争奪戦にまで及んだ西武ホールディングス(HD)とその筆頭株主である米国投資ファンド、サーベラスとの対立は、西武HDの再上場に暗雲をもたらすばかりではなく、埼玉西武ライオンズ等のステークホルダーにも悪影響を与えかねない状況になっている。一体、何がそうさせたのだろうか。

 できれば今年3月までに、遅くとも今年中に、2004年に上場廃止となった西武鉄道の株式を再上場することが西武HDのもくろみと私は聞いていた。現に、2012年12月、西武HDが東京証券取引所に上場を申請し、準備は着々と進んでいると思われた。ところが、今年3月に入って、サーベラスが突然西武株のTOBを表明。その際、西武HD経営陣とサーベラスとの間の経営上の意見の相違が明るみになった。

 企業体質を強固にして再上場の際の株価をできるだけ高くしたい、と考えるのは西武HDとサーベラス、両社の共通の思惑のはずだ。それがなぜ対立するようになったのだろうか。今回の一連の動きには、全く理解に苦しむ場面が多々ある。2012年10月までさかのぼって、疑問点を整理してみる。

(1)西武HDとサーベラスとのコミュニケーション

 この点が最大のミステリーである。2012年10月、サーベラスのトップ、スティーブン・ファインバーグ氏からのビジネスレターが西武HDの後藤高志社長に届いた。レターには、ホテル、鉄道、海外事業などの経営改善策が約50項目記載されており、その中に、赤字鉄道路線の廃止とライオンズの売却も含まれていた。

 この内容を後藤氏が公開したのは今年3月のサーベラスTOB実施に関する記者会見の時だった。レター入手から内容の公表までの6カ月間、何が行われ、何が行われなかったのか、その疑問をいくつか挙げてみよう。

・筆頭株主のトップから企業のトップに手紙が届けば、通常、企業は最優先してその内容を詳細に吟味して、直ちに返事を出すのが普通だ。それがなぜ、6カ月間も返事が留保されたのだろうか。

・トップ同士がコミュニケーションをとる際、その当事者が直接やり取りすることはあり得ず、両社が、弁護士や専門家(サーベラスの場合はサーベラスジャパン代表を含む)からなるタスクフォースを組成して、討議を重ねるのが普通だが、その形跡がないのはなぜだろう。

・ファインバーグ氏がレターを送付した2012年10月、西武HD側は上場申請前であり、会社全体が忙殺されて、上場関連以外の案件に時間をかける余裕がなかったのかも知れない。一方のファインバーグ氏だが、10月は、もう総選挙が近いと言われ、次期首相候補の安倍晋三氏が日銀改革を盛んに口にしていた時期に当たる。

 この時期は米国の投資ファンドが日本の株式の買い付けに走り始めたタイミングと一致する。米国の仲間の動きを知った彼が、株価が高騰するであろう2013年中の上場実現を望むのは当然のことだ。また、上場時の株価を上げるために筆頭株主が西武HDに経営改善を要求するのも極めて自然な行為だが、西武側はなぜ米国の動きや2013年の政治・経済状況に無関心・無視を決め込んだのだろうか。

(2)赤字路線の廃止とライオンズ売却

 サーベラスが改善を要求した約50項目の中には、西武側が真剣に改善しなければならない案件がいくつもあったはずだ。それなのになぜ、路線廃止と球団売却のみをとりあげたのだろうか。この二つはサーベラスの考えに反対する格好の材料ではあるが、よく考えると、サーベラスから指摘されるまでもなく、再上場前だからこそ、路線廃止と球団売却については、何らかの措置をとっておくべき案件だった。

 だから、サーベラスの提案が全くの的外れとも言えない。第三者の筆者としては、西武側が路線廃止と球団売却にどんな返事を用意していた ・・・ログインして読む
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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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