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 7月19日(金)、日本テレビの『スッキリ!!』が謝罪した。番組開始から50分以上も経過し、CMとCMの間の、目立たない形でそれは発表された。同番組が去年「実際には被害者でない2人を被害者として放送した」という。

 日本テレビの説明によると、1度目は去年2月29日、女性をターゲットにした新たな出会い系サイトを使った詐欺被害の特集だった。放送では「実際にお金を支払ってしまった女性」として顔を隠した女性が「200万円くらいだまされて支払った」と証言。番組内で 千葉県に住む28歳の女性と紹介されていたが、この「被害者」は実際には番組に登場した弁護士の知り合いに過ぎず、被害者ではなかったという。

 2度目は去年6月1日、芸能人になりすましたサクラサイト詐欺被害の特集だった。400万円ほどの被害に遭ったという男性が顔を隠し登場したが、この男性も前述の弁護士が紹介した人物で実際には被害者ではなかった。弁護士が頼んだ相手だったという。

 「弁護士から被害者として紹介された2人について十分な裏付けを取らずに放送しました」「今後こうしたことのないよう、再発防止に努めてまいりたいと思います」。この言葉と一緒に出演者4人がカメラの前で一斉に頭を下げた。日本テレビは弁護士の実名を挙げて放送したが、この部分を見る限り、悪質な弁護士にだまされた自分たちは一種の被害者である、と言いたげであった。だが、はたしてそう言い切れるのか。私はその言い訳がましいコメントに違和感を持った。

 確かに「被害者」として登場した男女2人は同じ弁護士が日本テレビに紹介した人物だ。とはいえ「十分な裏付けを取らず」というだけの問題だろうか。そうではないと私は考える。この「被害者」たちは、日本テレビのスタッフが弁護士に対して「被害者を誰か紹介してください」と頼んだことを受けて、弁護士が紹介したものだ。弁護士の方からこうした被害者がいるのでテレビで放送してほしい、と依頼したわけではない。となると取材のやり方として、被害者を自ら探さずに第三者に「紹介してください」という手法の是非こそが問われるべきだ。私自身はこうした「紹介を頼む」取材はとても安易で慎重に行われるべきものだと考える。

 私自身はテレビ報道のディレクターとして長く労働問題や貧困問題を取材していた流れを受けて、現在、大学の教員をしながらも「ブラック企業問題」や「生活保護問題」にかかわる問題告発や相談等の社会活動にかかわっている。そうしうた活動をしていると、テレビや新聞、週刊誌などのマスコミ人から頻繁に電話やメールが寄せられる。多くはブラック企業で現在働いている人、最近になって失業した人、生活保護を受けて就職活動をしている人、貧困状態にあって親の都合で住民票がない子どもなど、「当事者」を知らないか、という問い合わせだ。知っていたら「紹介してほしい」というのだ。

 一つのジャンルを長く取材していると、支援活動をする団体や弁護士らと親しくなり、「紹介」などしてもらわずとも当事者たちと当たり前のようにめぐり会う。経験豊富なジャーナリストであれば、もちろん支援団体や弁護士らも取材するが、支援者としての立場の話を聞くだけにとどめて、「紹介」などを依頼しないのが通常だ。当事者は自分で探す、というのがある程度ベテランのジャーナリストたちの矜持だ。一つのニュースなりドキュメンタリーを取材する際に、「当事者」というのは取材者にとって“道案内人”でもある。場合によっては番組全体の性格までその当事者次第で変わってしまう。それなのに誰でも良いと考えて、他の人に当事者探しを依頼するならば、少なくともその取材者はジャーナリストとして失格者だと私は考える。

 ところが、事前勉強をいっさいせず、ある日突然、電話してきて「当事者を紹介してほしい」と要請してくるマスコミ関係者が少なくない。顔も合わせたことがないのに「いついつまでにお願いします」などと言う。実は、民放テレビの報道番組や情報番組に多いタイプだ。私が「ネットカフェ難民」の問題を世に問うたのは2007年のことだが、今になっても「ネットカフェ難民の当事者を誰か紹介してください」という電話が大学に様々なテレビ局からかかってくる。

 少し考えてみてほしい。現在、生活が困窮して日々の生活に追われている人。 ・・・ログインして読む
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筆者

水島宏明

水島宏明(みずしま・ひろあき) ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター、「ズームイン!」解説キャスター等の後、法政大学社会学部教授を経て16 年4 月から現職。主な番組に「ネットカフェ難民」など。主な著書に『内側から見たテレビ』など。「ヤフーニュース・個人」で報道に関する記事を発信中。

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