2013年08月14日
死者をこの世に迎える鐘が響き渡る。京都鳥辺野の麓、六道珍皇寺の迎え鐘である。千年より昔、鳥辺野へ葬る死者に引導を渡した寺で、あの世とこの世の境界とされていた。あの世が近いゆえに、幽霊噺が多く伝わり、墓の中で赤ん坊を育てた幽霊が夜ごと飴を買いに来る「幽霊子育て飴」の舞台でもある(この話にインスパイアされて、水木しげるの『墓場の鬼太郎』は誕生したという)。
珍皇寺の迎え鐘を撞くと、十万億土の地まで鐘の音が届き、その音をたよりに死者がこの世に還って来られるという。京の人々は先祖の霊を迎え、高野槇の枝に霊をのせて家に連れ帰り、一緒にお盆を過ごして、五山の送り火の16日にまた先祖の霊を送り出す。その皮切りが珍皇寺「六道まいり」(8月7日~10日)の迎え鐘である。
おごそかなるそのお盆行事は、京の町の人にとって日々の暮らしの「当たり前」であって、数年前までいたって素朴なものであった。おじいさんやおばあさんが孫の手を引いて鐘を撞き、「お精霊さんが帰ってきはった」と言って参ったものである。それが近年、鐘楼のまわりに幾重もの列ができ、整理券が配布されて2時間待ちという状態。早朝6時から夜の10時まで途切れることなく鐘が撞かれる。訪れる人々を眺めていると、地元の人より明らかに観光客が多い。それも若い人々が目立つのだ。
たしかに摩訶不思議なところではある。平安時代の官僚である小野篁は、毎夜、珍皇寺の井戸からあの世へ出かけて閻魔庁で第二の冥官を務めていたという。境内の閻魔堂には、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください