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試合日程、投球数……改革すべき点がまだ多い高校野球

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 サラリーマンの世界やスポーツ界に限らず、「運も実力のうち」とよく言われる。今年の高校野球でもその「運」を目の当たりにした。前橋育英(群馬)は攻守に優れていたが、それだけではなく、運を呼び込んで初出場・初優勝を飾ったと思う。

 「運」と思われる場面は2度あった。しかも、2度とも二塁手前のイレギュラー・バウンドだった。

 1度目は準々決勝の対常総学院(茨城)戦。2点を追いかける9回表、2アウトランナーなしから奇跡が起こった。最後と思しき打者の打球は強いセカンドゴロ。誰もが万事休すと思ったに違いない。ところが、ボールが二塁手の前で撥ねて一塁セーフ。これから甲子園の雰囲気が一変、押せ押せムードの中で同点に持ち込み、10回に逆転して勝利をもぎ取った。まさに、明暗を分けたイレギュラー・バウンドだった。

 2度目は決勝の対延岡学園(宮崎)戦。3点取られた直後の5回表。先頭打者が本塁打。これで1対3となり、活気が戻った。次打者の投前ゴロが投手のエラーを誘発。ノーアウト一塁で次の打者の打球は何でもないセカンドゴロ。ダブルプレーと思いきや、ボールが撥ねて二塁手が後逸。ツーアウトではなく、何とノーアウト一塁と三塁。この回同点に追いつき、7回の1点追加が決勝点になったのだから、強運のセカンドゴロだったと言える。

 勝敗を左右する2度のイレギュラー・バウンド。もともと、内野手の前は走者によって地面が荒らされるので、今までさほど気に留めなかった。だが、今大会は二塁手と遊撃手の前でのイレギュラー・バウンドが格別多かったような気がする。これは天候の影響と推察している。今年の夏は例年以上に暑かった。加えて、大会期間中1度も雨天による順延がなかったから、グラウンドに大目に水を撒いても「焼け石に水」の状態だったに違いない。

 夏は暑いものと決まっている。それにしても、近年の夏は各地の気象観測所が新記録の高温を計測した。日本全土で今まで経験したことのない集中豪雨に見舞われることも多くなった。以前から指摘されていることだが、地球温暖化の影響で日本列島の気候が温帯から亜熱帯に変わったのかも知れない。

 特に、今年の夏は全国的に異常な高温が続き、熱中症で病院に搬送される人の数が驚くほど多かった。甲子園も炎天下での試合が続いた。とりわけ、午後から始まる第3試合のグラウンドと観客席は、想像を絶する気温になっていただろう。現に、常総学院の投手が熱中症で降板を余儀なくされた。

 夏の全国高校野球選手権大会は95回を数えた。長い歴史の間に、気温を含む野球環境や選手たちの体質が変わった。世の中も大きく変わり、選手たちの人権に対する気配りも必要になってきた。

 また、日本以外の国では「アマチュアリズム」が死語になりつつある。IOC(国際オリンピック委員会)やFIFA(国際サッカー連盟)は非営利組織であるにもかかわらず莫大な収入と利益を上げているのが典型的な例だ。また、米国の大学スポーツ団体も4大プロリーグが獲得する収入とほぼ同額の収入を得て、その利益を大学に配分している。だから、米国の大学のスポーツ施設は驚くほど充実している。

 日本を除く世界各国の非営利のスポーツ団体は大いに稼ぎ、そして得た利益をスポーツ振興に振り分けるのが一般化しているのだ。高校野球を取り巻く環境が変わりつつある点を考慮して、グラウンド内外の2点について高野連は検討すべきではないだろうか。

 まずはグラウンド内の事項だ。その1つは試合スケジュール、もう1つは投手の投球数だ。

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