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 2020年夏季五輪の開催都市に東京が選ばれた。スペインのマドリードには勢いがあり、トルコのイスタンブールには大義があった。だから、東京の勝利は「幸運」と「奇跡」とが重なった結果と言えるだろう。

 歴代の国際オリンピック委員会(IOC)会長は初代のデメトリウス・ビケラス氏(ギリシャ出身)からジャック・ロゲ氏(ベルギー出身)に至るまで、米国出身のアベリー・ブランデージ氏を除いて欧州出身だ。これは即ち、IOCが欧州出身者を中心に組織化されていることを示している。

 また、近年の五輪開催都市はシドニー、アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロと続いている。つまり、欧州大陸とその他大陸から交互に開催都市を選ぶのがIOC委員の暗黙の了解事項のようになっていた。このことからすると、マドリードの有利は明らかだった。

 客観的に3都市を比較すると、イスタンブールの優位性は際立っていた。なぜなら、同都市は「イスラム圏初」と「欧州とアジアの懸け橋」という「大義」の2枚看板を有していたからだ。特に、リオデジャネイロが「南アメリカ初」として選ばれた経緯からすると、「イスラム圏初」は強力な説得材料だった。

 東京は、「安全」「安心」「復興」をスローガンに掲げたが、ライバル都市に比べパンチ力で劣ることは否めなかった。しかも、招致活動終盤の大事なところで東京電力福島第一原発の汚染水問題が浮上した。これには世界中のメディアが注目した。何しろ、東京のセールスポイントの安全と安心に直結する。成り行き次第では致命的なマイナス要因と見なされかねないからだ。招致には半ば諦めのムードすら漂った。

 だが、神様は東京に味方したようだ。マドリードもイスタンブールも万全ではなかったのだ。

 山脈と河川が地域間交流を分断するスペインは昔から地方の独立心が旺盛だったが、金融不安に伴う国家財政緊縮策に不満を募らせる地方自治体が、昨今、中央政権からの独立を強く主張するようになった。実際に独立となると憲法を改正しなければならず簡単なことではない。だが、常に国が不安要因を抱えることを考えると本当に五輪が安心しておこなわれるのか心配にならざるを得なかった。

 加えて、欧州全体を取り巻く金融不安が未だ払拭されていない。ユーロ圏組織全体が絡むことでもあり、スペイン一国で解決できることでもない。そのため、不安解消が何時になるかも分からない。かかる状況が生み出したのかも知れないが、投票権を持つ40名以上の欧州出身のIOC委員が一枚岩になってマドリードを支持しなかったことが決選投票に持ち込めなかった原因になったようだ。2024年誘致を目指す欧州の都市の駆け引きや新IOC会長選の思惑が重なったことがマドリードにとって不幸に繋がったと言えるだろう。

 イスラム圏初を目指すイスタンブールは、 ・・・ログインして読む
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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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