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フィギュアスケート、シーズン開幕。新しいペア高橋成美&木原龍一組にも注目だ

青嶋ひろの フリーライター

 本格的にフィギュアスケートシーズンが始まるのは、10月中旬のグランプリシリーズから。しかし今年は4年に一度のオリンピックシーズン。この9月26日に開幕したネーベルホルントロフィーから、既に大きな注目が冬の花形スポーツに注がれている。

 ネーベルホルン杯は、グランプリシリーズ(6戦+ファイナル)に次ぐ重要度を持つとされる、「国際Bシリーズ」のひとつ。グランプリシリーズ前の足慣らしとしてトップ選手も少なからず参加する大会で、日本からは男子の織田信成、そして3シーズンぶりの競技復帰となる安藤美姫らが話題になっている。彼らの活躍も追ってリポートしたいが、ここではぜひ見逃して欲しくない、日本のペアスケーターを紹介したい。

ペアSPで演技する高橋成美、木原龍一組=2013年9月27日、ドイツ・オーベルストドルフペアSPで演技する高橋成美、木原龍一組=2013年9月27日、ドイツ・オーベルストドルフ
 ネーベルホルン杯が公式戦2戦目となる、高橋成美&木原龍一組。

 彼らは実に7年ぶりに登場した日本人同士のペアであり(06-07年に全日本ジュニアに出場した高橋成美&山田孔明組以来)、11年ぶりに国際試合に出場する日本人同士のペアである(03年アジア大会に出場した小笠原牧子&小笠原健雄組以来)。

 日本のフィギュアスケート界は、男女シングルが圧倒的な強さを世界に誇り続けている。

 女子はこの12年で、世界選手権のメダルを12個獲得。続いて男子がこの4年で4個のメダルを獲得。

 あとはフィギュアスケートの華やかさを担う、カップル競技の充実! そう叫ばれてからずいぶん月日が経った。ペアが史上初めての日の丸を世界の表彰台に掲げたのは、2012年。高橋成美&マーヴィン・トラン組が、ついに世界選手権の3位に入ったのだ。

 当然、「日本はシングルだけじゃない」という機運は盛り上がり、「カナダ出身のトランに日本国籍を。それもソチ五輪までに!」という声も高くなった。ソチでは史上初めての団体戦が採用されるため、チームでも日本にメダルを、と、いっそうペア強化の動きは強くなっていく。

 そのさなかの2012年12月、高橋とトランが「スケートに対する考え方の違い」を理由にチームを解消。当時の新聞には、「これで日本の団体戦のメダルは絶望」と書かれていたことを思いだす。

 しかし高橋自身の前向きな姿勢と関係者の尽力が実り、嬉しいニュースが飛び込んできたのは2カ月後。男子シングルで世界ジュニア出場経験のある木原龍一が、ペアに転向、高橋と新たなペアを組むことが発表されたのだ。

 新しいペア、しかも今度は、日本人同士のチームが結成される! これは本当に心躍る出来事だった。もちろんマーヴィン・トランは素晴らしい選手で、日本代表として5年間、堂々と戦い、ファンの視線をペアにも向けさせてくれた。だが新しいパートナーとともに高橋成美が再始動するのならば、木原龍一以上の相手はいない、と思われたのだ。

 「背が高いし、ジュニア時代から一緒に試合に行ってたんですが、以前から優しくて、仲が良かった。それにスケーティングもきれいだったし……一番の決め手は、スケーティングですね。あんなふうに、いっしょに滑りたいと思ったから!」(高橋)

 日本の男子スケーターとしては、大きな体格。気骨のある男らしい滑りを試合で見せたかと思えば、エキシビションでは「宇宙戦艦ヤマト」「スターウォーズ」などのプログラムでコスプレを披露し、芸達者ぶりも見せる。ただしジャンプは、名指導者・長久保裕に師事をしたのが遅く、まだまだ成長中。ライバルたちが4回転を次々跳ぶ中、トリプルアクセルに挑戦している段階だった。12年全日本選手権では、男子シングルで12位。

 群雄割拠の日本男子シングルでは、グランプリシリーズなどで活躍を見たい選手が数多揃っている。しかし彼らが全員、メジャーな国際試合には派遣されるには、層が厚過ぎる。こんなに滑れて、個性があって、こんなに観客を楽しませてくれるのに、世界の舞台に立てないなんて……しかも体格などは、最もペア向き。木原はそんな選手だった。彼がもしペアで活躍をするならば、日本のスケート界にまた新たな潮流が生まれるのではないか、と大きな期待をしてしまう。

  「でも、迷いましたよ。誘われてから、すぐに決断はできなかったです。自分で納得できるかどうかちゃんと考えたし、これがほんとうに正しい選択なのかどうか、悩みました。もう覚えていないくらい、長い時間悩んで(笑)。シングルからの転向なので、僕が確実に成ちゃんの足を引っ張ることはわかってた。最初は、すごく不安でした」(木原)

 これはアイスダンスにも言えることだが、シングルをずっと練習してきた選手が、カップル種目に転向するには、大きな覚悟がいる。ダンスの選手ならば、今まで練習してきたジャンプをすべて封印しなければならないし、ペアもシングルほど高度なジャンプを要求されない。

 だが、シングルとペアでは、競技の特性や醍醐味が違う。表現の可能性も氷上に描き出せるものも、まったく違う。そのことを知れば、選手たちはまったく新しい挑戦をすることができる。木原自身がいち早く新しい可能性に気づいてくれたのは、嬉しいことだった。

 「シングルが嫌になったとか、限界を感じたわけではないです。でも、今しかできないことがあるんじゃないか、と。それで、挑戦してみようと思いました」(木原)

 そうはいっても、ペア結成からソチ五輪本番まで、たった1年。五輪出場資格をとるための予選(今回のネーベルホルン杯)まではさらに短く、7カ月。それまでに、まったく経験のない木原が、どこまでペアスケーターになれるのか。ふたりのマッチアップは、どこまでうまくいくのか。その行方に、大きな興味が持たれていた。

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