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プロ野球の理想的なコミッショナー像とは? 

大坪正則 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

 9月19日、日本野球機構(NPB)の加藤良三コミッショナーが、NPBの社員総会とオーナー会議で今シーズン終了後の辞任を表明した。加藤氏は2008年7月1日に就任。3期目の任期満了が2014年6月末だったので、任期途中での退任ということになる。

 加藤氏は外務省出身で駐米大使などを歴任。「国際派」を自認すると共に熱烈な野球ファンとして知られていた。米国メジャーリーグ(MLB)にも知己が多いことから、コミッショナー就任後、NPBとMLBとのより親密な関係作りを目指したが、日米双方が抱える経営構造やオーナーたちの経営姿勢の相違を突き破ることが出来ず、在任中の課題克服にさしたる実績を残すことはなかった。

 辞任の直接的引き金になったのは「統一球」問題だった。MLBとの交流を深める一手段として国際規格の統一化が不可欠と判断した加藤氏は、これまで各球団が任意に契約していたNPB使用球をMLBの使用球の品質に近付けるべく、1つのメーカーに絞り込むことを決め、2011年シーズンから「統一球」導入を実施した。

 ところが、基準値範囲内とはいえ、使用球の反発係数を下げたために本塁打が減り、得点の少ない「投高打低」の試合展開が目立つようになった。当然、選手はもとよりファンの間でも「統一球」導入は不評を買った。

 さらに選手を失望させたのは、統一球がワールド・ベースボール・クラシックの使用球と似ても似つかぬものだったことだ。そこで、NPBの一部職員とボールメーカーが極秘裏に反発係数を上げた統一球への変更を計り、2012年使用球の在庫調整後、2013年シーズンから新しい統一球の使用を開始した。

 だが、NPBは新統一球を公表しなかった。急に飛距離が伸びたことに疑問を感じた選手会がNPBに問い合わせて、ここで初めて使用球変更が発覚。同時に、加藤氏が使用球変更を「知らなかった」と発言し、NPB内部のコミュニケーション不足と彼のガバナンスの欠如を露呈することになった。

 この問題を踏まえ、NPBが第三者委員会を設立。9月27日に調査・検証の報告書が提出される予定だった。加藤氏に対する厳しい内容の報告書になると予想されたために、突然の辞任表明になったと言われている。

 経営者にとってガバナンスの欠如は致命的なことだが、「統一球」の問題はNPB内部のコミュニケーション不足の色合いが濃いことを勘案すると、「辞任」するほどの大事ではなかったはずだ。なぜなら、加藤氏を選任したオーナーはこの問題で彼を「解任」する意思がなかったからだ。これは、オーナーが加藤氏に期待していたのはガバナンスとは別の面だったことを意味する。

 事の本質を理解するために、オーナーとコミッショナーの関係を把握する必要がある。例として米国のプロリーグを取り上げる方が分かりやすい。

 コミッショナーの給料は誰が払っているのか? それは球団(オーナー)である。球団は資本家としてリーグ及び各球団の経営上の全リスクを負う一方で、フランチャイズ地域を除く国内外市場のビジネスとリーグ全体の法的管理をコミッショナーに委ね、労働者である選手たちとは契約によってその身分を拘束する形を取っている。その関係を以下に図表化する。

コミッショナー、球団、選手の関係拡大【コミッショナー、球団、選手の関係】

 図表が示すように、コミッショナーは、経営陣の一角を占め、選手(会)を直接擁護する立場にない。従って、コミッショナーは給料を払ってくれる球団(オーナー)の期待に添わねばならない。

 その期待とは、リーグ全体の「資産価値向上」である。だからリーグ全体の売り上げを高めることが最優先される。得られた収入はそこからコミッショナーの事務所経費が控除されて各球団に均等配分(Revenue Sharing)され、リーグの売り上げ増加は個別球団の収入増に直結する。

 球団は営利組織であり、オーナーは慈善的行為のために球団を保有しているわけではない。彼らの球団保有目的は会社や株式の所有と同じである。安く買って高い値段で売って値鞘を稼ぐことが目的だから、近年、コミッショナーには「ビジネスマン」の機能が強く求められる。

 半面、資産価値を下げることは避けなければならない。特に、スキャンダル等によってリーグと球団の経営を支えてくれる顧客(ファン)を始めとするステークホルダーの信頼・信用の失墜は致命的だ。

 だから、コミッショナーには強力な「裁判官」の機能が与えられることになる。コミッショナーは不祥事を防止するとともに、オーナー・選手・球団職員がリーグ全体に不利益を及ぼしたときには、団体労働協約の範囲内で果断な処分を下すことが許されている。ここに、コミッショナーの「判断・裁量は最終」である理由がある。

 それでは、NPBのコミッショナーの実像はどうなっているのだろうか。 ・・・ログインして読む
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筆者

大坪正則

大坪正則(おおつぼ・まさのり) 大坪正則(帝京大学経済学部経営学科教授)

1947年生まれ。1970年、伊藤忠商事に入社。1981~85年まで、アメリカのニューヨークとデンバーに駐在。情報通信総合企画室などを経て 1986年、NBAプロジェクトマネジャーに。現在、帝京大学経済学部経営学科教授。専門はスポーツ経営学。著書に『パ・リーグがプロ野球を変える』『スポーツと国力』(以上、朝日新書)、『プロ野球は崩壊する!』(朝日新聞社)、『メジャー野球の経営学』(集英社新書)など。2014年3月4日、死去。

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