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フジテレビ『ほこ×たて』の「実態調査」はガチンコ勝負で

水島宏明 ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

 フジテレビの人気番組『ほこ×たて』で「不適切な演出」が次々に見つかり、

 番組打ち切りが決まった。この番組は、主に日本の中小企業が持っている「技術力」や職人技の底力を競わせる番組で、これまでも「絶対に穴の開かない金属 VS どんな金属にも穴を開けられるドリル」「絶対に開かない金庫VS最強の金庫開け職人」「どんなものでも切断する解体作業用カッターVS 絶対に切れない自転車用防犯チェーン」「絶対に見破ることができない特殊メイク職人 VS 絶対に変装を見破ることができる元刑事」など、数々の名勝負を生んできた。

 2010年10月に特別番組として始まった当初は衝撃的で、テレビ界に衝撃を与えた。「面白くてタメになる番組」だと評判になり、2011年からレギュラー化。2010年にはギャラクシー賞月間賞や2011年ATP賞テレビグランプリ 情報バラエティ部門 最優秀賞、2012年度日本民間放送連盟賞のエンターテインメント部門で最優秀賞、も受賞した。

 この番組を真剣勝負だと信じて、毎回ワクワクしながら視聴し、授賞を検討してきたギャラクシー賞の選奨委員の一人としても、今回の出来事は大変残念だと言わざるをえない。

 問題が発覚したのは出演者の告発からで、対決のねつ造や順番の入れ替えなどが明らかになった。事実が明らかになればなるほど、2007年の関西テレビ『発掘!あるある大事典Ⅱ』のねつ造事件と構図が似ていることが分かる。

 社長の辞任や民放連除名という事態になった関テレ『あるある』事件を考えてみると、フジ『ほこ×たて』事件も同様な事態も想定して対応が行われているとみることができる。

 それほど『ほこ×たて』事件がテレビ業界全体に与える衝撃は大きい。

 一連の経緯を振り返ってみよう。

●10月20日(日)『ほこ×たて2時間スペシャル』が放送される。

●10月23日(水)出演者の一人、広坂正美氏が勤務先であるラジコン製造販売会社「ヨコモ」のホームページに「この内容は全くの作り物です」「偽造編集したものが放送されてしまった」と書きこみ。過去に出演した際も偽造するような演出があったことを暴露した。

●10月24日(木) フジテレビがホームページで「収録の順番や対戦の運営方法について不適切と思われる演出が確認された」「放送を当面自粛する」と発表。

●11月1日(金) フジテレビがホームページで『ほこ×たて』の放送終了を発表。「出演者の方からご指摘頂いた収録の順番や、対戦の運営に関する経緯は、大筋において事実であり、不適切な演出があったことが社内の調査で確認されました」としている。BPOの放送倫理検証委員会に報告書を提出。調査は引き続き継続し、再発防止を徹底するため、対策委員会の設置や、識者を講師とした「コンプライアンス懇談会」を開催するとした。

 フジテレビは問題をホームページで発表する際、「不適切な演出」「不適切と思われる演出」という表現をしている。関西テレビが『あるある』事件の後で「事実と異なる内容」や「捏造」という表現をしていたのと比べると、かなり軽めの表現だ。果たして、「事実と異なる内容」や「捏造」はなかったのか。以下、検証してみたい。

 問題になった10月20日放送の『ほこ×たて2時間スペシャル』。広坂氏が出演したのはその中の「絶対命中スナイパー軍団VS.絶対逃げるラジコン軍団」というコーナーだ。アメリカのスナイパー軍団が、日本のラジコン軍団と対決するという設定。高速で動き回るラジコンカーやラジコンヘリ、ラジコンボートを銃で撃つことができるか、ラジコンの操縦者の日本人3人と狙撃者のアメリカ人3人が「対決」した。

 番組で登場するのが、スナイパー軍団は、元空軍のジョージ。射撃世界チャンピオンの女性レヤ。8歳から射撃を始めた海軍最強スナイパーで40歳ベテラン、クリスの3人だ。

 一方のラジコン軍団は、ラジコンカー世界選手権14連覇の実績を持つ広坂正美氏の他、ラジコンヘリ世界チャンピオン。ラジコンボート100メートル1秒78という日本記録保持者の日本人3人。

 番組では、「先鋒」「中堅」「大将」の3対3の勝ち抜き戦で勝敗を競うとされ、勝った方が勝ち残って次の相手と対戦していく仕組み。

 「我々日本人が作ったラジコンは絶対に逃げ切ります」とラジコン軍団が宣言。スナイパー軍団は「我々アメリカ人スナイパーはどんな物でも狙い撃つ」と吠えて、日米決戦の様相を呈した。

 放送では、対決1日目の第1戦は、ラジコンヘリVS海軍最強のクリス。

 第1戦は、クリスの勝利。

 第2戦は、勝ち残ったクリスVSラジコンカーの広坂氏の対決。

 会場は、暗闇の空き地。対決直前にクリスと広坂氏が向かい合って会話するシーンがある。

 ルールは、対決時間は2分間。銃弾は5発。

 この間に弾が当たらなければラジコンカーの勝ち。弾が当たればスナイパーの勝ち。広坂氏がリモコンを動かし、ライフルを構えるクリス。残り時間が1秒になったところで4発目、5発目の銃弾がラジコンカーに当たり、広坂氏は敗れる。

 対決2日目は、クリスVSラジコンボート。

 ルールは100メートルの範囲内をボートはいくらでも動ける。スナイパーは何発でも撃てる。スタートからゴールまで弾が当たらずに ボートが進めばラジコンボートの勝利。当たればスナイパーの勝利。

 この勝負はラジコンボートが勝利する。

 スナイパー軍団は「中堅」の女性のレヤが登場。しかし、弾を当てられずに敗退。「大将」のジョージも敗退で、ラジコン軍団は2連敗の後の3連勝で日本が勝利する。

 ところが、広坂氏がホームページに発表した事実によると、撮影時の実際は放送内容とかなり異なるという。

 実際の収録では、最初に行われた対決ではラジコン軍団は「先鋒」がラジコンボートだった。それが3連勝したので日米軍団の対決はそこで勝敗がついていたという。ラジコンカーやラジコンヘリは出番がないまま、日本側の勝ちが決定したのだ。

 広坂氏によると、ラジコンヘリやラジコンカーとスナイパーとの対決も見せられるように順番を入れ替えることが決まり、撮影が 行われたというのだ。

 放送を見ると、広坂氏のラジコンカーはひげ面の男性スナイパーのクリスと対決している。

 しかし、広坂氏が撮影時に実際に対決したのは女性スナイパーのレヤだった。しかもルールも放送したルールとは違っていて、「最初の1 分間は撃ってもよいが、決してラジコンカーに当ててはならない」「実際の真剣勝負は残りの1分間で、1分間の中で3発のみ撃てる」という内々のルールだったという。ところが開始わずか数秒でレヤがルールに違反して車に銃弾を撃ち込んだ。ボディーが外れて飛び散って しまった。さらに2発目がバッテリーに命中、その後も立て続けに連射され、1分経たずにラジコンカーはバラバラに破壊されてしまったという。

 撮影は一旦中断、レヤは広坂に対し「弾が当たってしまいました。後ろから殺せという声が聞こえてきたので、つい連射してしまいました。ごめんなさい」と話したという。

 ラジコンカーは現場では修復できず、広坂は制作スタッフに番組への出演辞退を申し出た。同時にスナイパー側と制作スタッフ側も揉め、「スナイパーVSラジコンカー」は正式な対決がないまま中止となった。

 ところが、放送では「(男性スナイパーの)クリスとラジコンカーが対決。クリスが残り1秒で勝利した」となっている。対戦相手も入れ替えられ、勝負の結果も事実とは異なって放送されている。

 これは「不適切な演出」などというレベルではない。

 対戦相手までが編集で巧妙に入れ替えられているのだ。

 これは「ねつ造」と言えるレベルではないのか。

 まさに「事実と異なる内容」だ。

 「不適切な演出」などという表現は「行き過ぎた演出」というニュアンスを含む。テレビの良心的な演出家なら、「ねつ造も演出の一種に含めるのか」と怒るのが普通だ。私自身も報道番組の演出一筋で来た人間だが、実際にそこに存在しなかった人間をいたかのように編集ではめ込むのは「ウソ」であり、ねつ造だという他に表現は見当たらない。

 それを「不適切な演出」などというフジテレビのごまかしを許しては

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筆者

水島宏明

水島宏明(みずしま・ひろあき) ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター、「ズームイン!」解説キャスター等の後、法政大学社会学部教授を経て16 年4 月から現職。主な番組に「ネットカフェ難民」など。主な著書に『内側から見たテレビ』など。「ヤフーニュース・個人」で報道に関する記事を発信中。

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