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サッカー欧州遠征~最大の進化はザック流か

潮智史 朝日新聞編集委員

 1カ月前の同じ欧州遠征から、なにがどう変わったのだろうか。

 同じ2試合を戦った10月と11月の欧州遠征の対戦相手を世界ランクを比べれば、10月のセルビア、ベラルーシから今回のオランダ、ベルギーははるかに格上の強豪国にあたる。1ゴールも奪えないまま2連敗した10月の遠征から一転して、5得点を挙げて1勝1分け。結果同様に内容も改善されたのは明らかだろう。
代表チームを動かした最も大きな要素は、危機感そのものだったと思う。

 6月のコンフェデレーションズカップから南米、欧州の強豪を相手に勝てずにいた。W杯出場権を手にして、「さあ、世界への挑戦だ」と意気込んだ途端に、「出直してこい」と突き返された。

 自信が揺らぐだけでなく、来年のW杯でどう戦うべきかという議論に頭がいってしまって、肝心の目の前の課題に取り組む当たり前の気構えも揺らいでいた。

 どんな理想の姿を描いていても、そこに近づいていく作業は一足飛びになせるものではない。ときには1歩後退しながら、問題をクリアしながら積み重ねていく。チームはそういう過程で成長していくものだろう。

 まず、目の前の相手と戦い、問題に取り組もう。選手たちがそういうことに気づいたのではないだろうか。選手間で盛んに意見交換する機会が増えていた。

 もうひとつ、明らかな変化は、試合勘を含めた個人のコンディションが整っていたことだ。

 その典型だったのが、香川と長谷部。欧州の開幕当初は出番がなく苦しんでいたが、香川は所属先のマンチェスター・ユナイテッドが不振だったこともあって、出番を増やしてきた。長谷部はニュルンベルクこそ低迷しているが、移籍して出場機会を確保した。

 私は10月の欧州遠征に不振について、その原因を見誤るなと書いた。特に、攻撃を担う主力選手のコンディションの悪さを指摘したが、10月の選手の動きと考え合わせれば、選手にとって試合に出ることがどんなトレーニングにもまさることが理解できる。この問題は、代表チームにおいては常に抱えているものだ。
目に見える最大の変化であり、今後に向けてチームを活性化させると期待できるのは、ザッケローニ監督自身にありそうだ。

 これまでメンバーを固定しながら試合を重ねてきたが、オランダ戦では遠藤、香川、川島、柿谷をベンチに置いて、新しい選手を先発させた。さらにベルギー戦はオランダ戦から、内田、長友の両サイドのDFを代えるなど6人を入れ替えた。

 中2日での2連戦だったため、体調も考慮してのことだったが、ザッケローニ監督は「当初の計画から、コンフェデレーションズカップまではW杯予選を勝ち抜いたメンバーで戦うことを決めていて、それ以降は先発と控えの垣根なく、いろいろな選手を使って底上げすることを考えていた」と話している。つまり、意図的に選手を入れ替えながらテストしていく腹づもりだったようだ。

 先発からベンチに追いやられた選手にすれば、約束されたポジションはないと感じたろう。一方、これまで控えに回る機会が多かった選手はチャンスが巡ってきたと考えないはずはない。

 そのなかでも最も効果的だったのは、2試合続けて遠藤をベンチに置いたことだ。

 前回のW杯南アフリカ大会から、ボランチと呼ばれる中央のMFは長谷部と遠藤が不動の先発だった。選手をほぼ固定しながらチームのベースを築いてきた

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筆者

潮智史

潮智史(うしお・さとし) 朝日新聞編集委員

朝日新聞編集委員。1964年生まれ。87年入社。宇都宮支局、運動部、社会部、ヨーロッパ総局(ロンドン駐在)などを経て現職。サッカーを中心にテニス、ゴルフ、体操などを取材。サッカーW杯は米国、フランス、日韓、ドイツ、南アフリカ、ブラジルと6大会続けて現地取材。五輪は00年シドニー、08年北京、12年ロンドンを担当。著書に『指揮官 岡田武史』『日本代表監督論』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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