メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

自己規制がすでに始まったNHK、籾井次期会長誕生の内幕

川本裕司 朝日新聞社会部記者

 次期NHK(日本放送協会)会長に経営委員会から20日に任命された籾井勝人・日本ユニシス特別顧問の記者会見の第一声は低姿勢だった。「放送は公正中立、不偏不党で実行していく必要がある。放送法に基づき運営されているのが協会だ」。警戒感を和らげるかのような原則論をよそに、安倍晋三首相に近い経営委員4人の人事案が10月25日に明らかになったあと、NHKは特定秘密保護法案の報道で及び腰になっていた。次期会長の就任前から表面化した放送現場の自己規制は、この2、3年間に徐々に進んできた。

 会長の任命権をもつ経営委員会関係者などによると、12月13日に開かれた指名部会で12人の経営委員から推薦のあった会長候補は4人。所用で退席した1人を除く11人で4人の候補についてそれぞれ多数決をとったところ、過半数の6票以上を集めたのは籾井氏だけだった。籾井氏を推薦した委員はJR九州の石原進会長だったという。民主党政権時代に経営委員に選ばれた委員が1期3年で次々と退任するなか、石原氏は11月に再任が決まっていた。

 時の首相と個人的に親しい複数の委員が任命されるのは前代未聞。それだけに会長も首相と距離の近い人が就任するという予想は多かった。ところが、籾井氏と安倍首相は面識がないという。ただ、思想的には近いという指摘がある。週刊文春の取材に対し、籾井氏は「中国が安倍さんのことを右傾化していると言っていたけど、何を言っているのかと。それで言うと中国なんかはもっと右じゃないか。そのへんのことを日本のメディアはもっと考えてもらわないと困る」(12月26日号)と答えたとして掲載されている。

 ただ、経営委内部も複雑だった。新経営委員4人の同意人事案が衆参両院で可決されたあと、菅義偉官房長官が「任命権者は首相だから、自らが信頼している人を起用するのは当然だ」と述べたのに対し、「経営委員会の私物化」だと批判した野党ばかりでなく、経営委員からも反発があがった。ある委員は「経営委員人事では与野党がともに同意するのが望ましいのに」と、偏った人選で正当性が問われかねないという見解だった。就任前に「NHKに限らず、テレビの報道は皆おかしい」という発言が週刊文春に取り上げられた籾井氏について「手堅い松本会長に比べ、脇が甘い」という批判的な声が委員から出た。

 もともと、JR東海副会長から転じた松本正之会長は経営面で実績を上げ、再選は堅いと見られていた。しかし、首相に近い4人の新経営委員の顔ぶれで一変。原発やオスプレイのNHK報道などに不満をもつといわれる安倍政権の意向が反映された人事案で、松本会長再選の流れが止まった。

 人事案が示されて間もない11月1日、読売新聞は「NHK会長 交代の公算」、11月9日朝刊でも「NHK会長交代へ」と相次いで報じた。

 月刊誌や週刊誌では会長人事をめぐる政界や財界、NHK内部の暗闘が実名をあげて盛んに取り上げられた。月刊誌「選択」12月号は、JR東海の葛西敬之会長が「NHK会長に就任するや言うことを聞かなくなった松本に腹を立て、昵懇の安倍晋三首相らに働きかけて『松本降ろし』に躍起になる」と書いた。

 そして12月5日の定例記者会見で、松本会長は「やるべきことはもうやった」として1期での退任を表明した。

 この直後の10日、経営委員会があった。経営委関係者によると、松本会長は退任理由として「家族の都合」をあげた。会長就任について妻は反対していた。その後、協力してくれるようになったが、今回の会長の去就をめぐる報道などもあり心労を重ねていたという。松本氏の退任表明を聞いた妻は、泣いて喜んだといわれる。

 一方、あるNHK幹部は「経営委員会を割ってまで新顔候補と会長の座を争う気にならなかったのでは」と話している。別の幹部は「会長交代報道に反発していただけに退任表明は意外だった」と語った。

 朝日新聞が松本会長本人に「葛西JR東海会長から副会長人事や報道内容について要求があったのか」と聞いたところ、 ・・・ログインして読む
(残り:約1526文字/本文:約3191文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員。10年、論説委員兼務。17年4月から東京社会部。著書に『ニューメディア「誤算」の構造』。共著に『テレビジャーナリズムの現在』『被告席のメディア』『新聞をひらく』。

 

川本裕司の記事

もっと見る