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生活困窮者が悲観しないニューヨークの格差社会に希望はあるか

久保田智子 アナウンサー

 「ニューヨークは価値観が多様でいいわね。日本はだめね、みんな横並び志向で個性がない」

 日本からの電話で友人が愚痴るのを聞きながら、みんなが同じなんて素晴らしいじゃないかと羨ましく思ったのでした。確かにニューヨークは世界中から人が集まり、様々な価値観が共存しています。でも、それぞれの価値観を尊重するとは、別の言い方をすれば、それぞれ自己中心的に生きるということでもあります。「汝の隣人を愛せ」など宗教的な考えが支配的だった頃はそれでもまとまっていたのかもしれませんが、今のニューヨークは完全に箍(たが)が外れているように思うのです。

 このところニューヨークは隆盛を極めていて、訪れる観光客はここ数年増え続け、2013年も過去最高を更新することがほぼ確実です。経済も好調。12月に発表されたFRB=連邦準備制度理事会の量的緩和の縮小決定は株価にとってマイナスの判断にもかかわらず、その日の株価は落ちるどころか、最高値を更新しました。不動産が最も分かり易い例かもしれません。私が働くTBSニューヨーク支局の近くに建設中の分譲マンションがあるのですが、高さは306メートル、セントラルパークを一望できるペントハウスの値段は90億円からです。

 このマンション・ブームは、かつて危険で人が近づかなかった場所を高級住宅街に変えました。去年は観光スポットだった落書きアートの聖地「ファイブ・ポインツ」がマンション建設のために取り壊されました。マンハッタン南部にあったカトリック教会も、まもなくプール付きのタワーマンションに建て替えられます。先日地元紙に行き場のないキリスト像やマリア像が倉庫に集められている写真が掲載されていました。このところ閉鎖される教会が相次いでいるようです。芸術よりも、宗教よりも、マンションとは・・・・・・。マンハッタンの中心で空を見上げると、天を突き刺すようにビルが伸びていて、それはまるで現代のバベルの塔のようだと空恐ろしくなります。

 一方で、街の輝きが強くなればなるほど、その分影も濃くなるものです。去年10月、ニューヨーク・ブロンクスで3人の子供が死亡した火事がありました。母親は窓から助けを求め、近所の人が駆けつけましたが、火の勢いが激しく、何もできないまま目の前で子供たちが犠牲になっていったといいます。一家は貧しさのため電気を止められ、ろうそくの明かりで生活をしていました。今の時代にそんなことがあるのかと私はショックを受けたのですが、アメリカ、ことニューヨークでは決して珍しくない状況です。非営利団体「NYCCAH」の調べによると、ニューヨークには巨万の富を得る人たちがいる一方で、市民の6人に1人は食糧不足、子供に関してみると状況はさらに悪化し、5人に1人が食べるものに困っていると報告されています。火事のあったブロンクス地区はその中でも最悪の数値で、49パーセントの子供が食料不足の家庭で暮しています。

 ではニューヨーク市はこの深刻な格差にどのように対応しているのでしょうか。12年間市長を務めたブルームバーグ氏はホームレス対策などへの着手を試み、新しい市長のデブラシオ氏は「もっと安価な住宅を建築する」など対策を講ずる構えを見せています。でもここまで差が開いてしまうと何をしても手遅れなのではないかと私は希望が持てません。これはもうなるようになるしかない。以上。

 え、新年早々これでは希望がなさすぎますか? 大丈夫です、こちらの生活困窮者はさほど現状に悲観しているわけでもないようです。先日ニューヨークの生活困窮者支援施設を取材しましたが、みんな笑顔で、

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筆者

久保田智子

久保田智子(くぼた・ともこ) アナウンサー

アナウンサー。2000年、TBSに入局。17年6月に退社。「どうぶつ奇想天外!」「王様のブランチ」「筑紫哲也のNEWS23」「報道特集」「Nスタ」などのキャスターを担当。著書に『日日猫猫』。12年には文芸誌『群像』にて短編小説『息切れ』を発表。趣味はマラソン。ホノルルマラソンに8年連続出場。最高タイムは東京マラソンにて3時間55分。米国ヨガアライアンス、イシュタヨガ認定インストラクター。

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