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阪神大震災から19年~東北から訪れた夫妻の思い

西岡研介 フリーランスライター

 1月17日、神戸市中央区の東遊園地で開かれた「1・17のつどい」には今年も彼女の姿があった。19年前のこの日、1歳半の双子の長男、将君を亡くした、たかいちずさん。

 そして、ちずさんの隣には、彼女の招きで、宮城県から初めてこの「つどい」に参加した竹澤守雅・さおりさん夫妻の姿もあった。

 竹澤さん夫妻は2011年3月11日、名取市閖上で祖母と両親、そして生後8カ月の長男、雅人ちゃんの4人を東日本大震災の津波に奪われた。祖母と父親は遺体で見つかったが、母親のすみ子さんと雅人ちゃんは未だに行方不明だ。

 震災後、絶望と悲しみの淵に沈んでいた竹澤さん夫妻の存在を知り、そっと手を差し伸べたのが、阪神・淡路大震災で将君を失ったちずさんだった。

 そして震災で子供を失くした2人の母親の心は、16年という歳月、そして宮城―兵庫間約645キロという距離を超えて出会い、結びつき、「優しいあかりにつつまれて」という絵本が生まれた。

 1月13日に発売されたこの絵本については朝日新聞をはじめ様々なメディアに取り上げられたので、ご存知の方も多いだろう。17日も多くのメディアが、作者である2人の母親を囲んでいた。

 午前5時46分、公園に灯された竹灯篭にそっと手を合わせる、竹澤さん夫妻。黙祷の後、さおりさんはこう語った。

 「たかいさんのお陰で絵本が作ることができたこと、そしてこの絵本によって雅人や将君のことをたくさんの人に憶えていてもらえることは本当に嬉しい。また絵本をはじめ、これまで私たちを支えてくださった人達には感謝の言葉もありません。

 ただ、『絵本を作って何か変わったか…』と、よく聞かれるんですが、何も変わってないんですよね。一番変わって欲しい『雅人がいないという現実』が変わることがない限り、私たち(夫婦)の心は何も変わることはないんです」

 さおりさんが絵本を作っていた最中にも、夫妻はその『現実』と向き合うことになった。

 昨年11月、名取市は閖上の現地再建計画を決定した。今年秋にもかさ上げ工事を始めるという。守雅さんが語る。

 「警察や自衛隊による大規模捜索は2011年の秋に終わりました。その後も地元の(宮城県警)岩沼署が捜索を続けてくれていたのですが、震災から1年が過ぎるとそれもほぼ無くなり、途方に暮れ、心が折れそうになりました。けれども昨年2月からボランティアの人たちが手弁当で捜索を始めてくださった。名取市や岩沼署から『小さな側溝には遺体が入らないので捜索していない』と聞けば、小さな溝の蓋を一つ一つ開けて丹念に調べ、今も捜し続けてくれています」

 そこに決まったのが、浸水した閖上地区の現地再建計画だった。守雅さんが続ける。

 「閖上地区では雅人をはじめ、いまも41人もの人たちが行方不明なんです。かさ上げ工事で土が盛られてしまえば、行方が分からなくなった人はもう出てこられないのではないか…手がかりすら消えてしまうのではないか……と思うんです」

 そこで竹澤さん夫妻は「かさ上げ工事が行われる前にもう一度、大規模捜索を行って欲しい」と昨年末から、名取市や市議会などに嘆願書を提出するための署名を集め始めた。17日時点で900人を超える署名が集まっているが、夫妻さんは「期限の1月末までにできるだけ多くの署名を集めたい」として、ブログなどで発信を続けている。守雅さんが最後にこう語る。

 「名取市が日々、街の再生や復興に奮闘されているのは知っていますし、多くの市民がそれを望んでいるのも分かります。が、やはり行方不明者の家族としては、何としてでも見つけてやりたいというのが正直な思いなんです。かさ上げ工事の前にもう一度だけ、大規模な捜索を行ってくれることを切に願っています」

 一日も早い復興を目指す行政と、それから取り残されていく震災遺族や行方不明者家族の思い。あと2カ月で東日本大震災の被災地は「震災から3年」を迎える。

 (絵本「優しいあかりにつつまれて」の売り上げの一部は東日本大震災の行方不明捜索活動などに充てられる。購入希望はhttp://yasashiiakarinitutumarete.web.fc2.com/まで

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