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視聴者からの批判が殺到した籾井NHK会長の問題発言

川本裕司 朝日新聞社会部記者

 就任初日の記者会見でトップの資質を疑われる発言した経営者は聞いたことがない。NHKに会長を任命する経営委員に安倍晋三首相に近い4人が選ばれ、注目を集めた末、会長に決まった元三井物産副社長の籾井勝人氏の不適切発言は、視聴者からも強い批判を受けている。報道機関としての信頼を失墜させたインサイダー事件などを大きく上回る、視聴者からの抗議は空前の規模であり、ここ数年にない件数となっている。新年度予算を審議する国会などでの答弁を乗り切れるのかという不安要素は強く、船出してすぐに入った危険水域からまだ脱していない。

 籾井会長は1月25日にあった記者会見で、従軍慰安婦問題について「解決ずみ」なのに蒸し返そうとする韓国を批判、国際放送では領土問題で日本の主張を前面に出す、と政府を代弁するかのような姿勢を打ち出した。野党などからは反発を受け、局内からも失望の声が相次いだ。

 実は籾井会長の放言癖は懸念されていた。任命直前には週刊誌の取材に対し、「NHKに限らず、テレビの報道は皆おかしい」と答えた、と伝えられた(「週刊文春」昨年12月26日号)。12月20日、会長に経営委員会から任命されたあとの記者会見で、籾井氏は「出身が(福岡県の)炭鉱地方で、多少野蛮なところがある。ザラッと言うから誤解されやすい」と自己紹介していた。経営委員12人は籾井氏の所信表明を聞き退席してもらったあと、全会一致で任命する前の意見表明した。この際、4、5人から「心配なのは発言が誤解を招く可能性」「言葉の選び方には留意を」と指摘を受けていた。不安が的中したわけだ。ある経営委員は「ああいう人だとわかっていたら選ばなかった」と後悔した。

 籾井氏は任命後の会見で「週刊誌の取材のときは、ちょっとほろ酔いだったものですから」と釈明。従軍慰安婦問題は「戦争をしているどこの国にもあった」などと述べた就任会見の発言については翌1月26日、「不適当だった」と反省する姿勢を見せた。

 しかし、NHKの放送現場にいる職員からは「日本政府の主張を伝えることが国際放送の役割と誤解しているのではないか。これでは持たない」「微妙な従軍慰安婦問題について一方的な立場でしゃべっている。がっかりした」と落胆の声があがった。

 就任前の籾井会長の姿勢に疑問を投げかける見方もあった。畑違いの商社やIT企業からの転身なのに、次期会長に内定してから就任までにNHKを訪れる日数が少なかった、という局内の指摘がある。
「民間から来た福地茂雄元会長や松本正之前会長のときより就任前にNHKを訪れていた時間は短かった」(幹部)、「幹部が説明用の書類を渡しても見ようとしなかったらしい」(管理職)という証言が局内で広まっている。籾井会長は会長に任命された昨年12月20日の経営委で「基本的に松本会長の路線に沿う」と言いながら、NHKの役員や職員の説明に耳を傾ける姿勢が欠けている、と受け止められている。

 視聴者からの反発も大きかった。NHK関係者によると、籾井会長の問題発言から5日足らずの29日午前9時までに、NHKのコールセンターに寄せられた電話は6000件を超えた。批判的な ・・・ログインして読む
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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを経て、19年5月から大阪社会部。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

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