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[2]羽生結弦はプルシェンコとの対決で何を得たか

団体戦の思いもよらない影響

青嶋ひろの フリーライター

 それにしても羽生結弦とプルシェンコ(ロシア)。19歳と31歳。団体戦、個人戦と、フィギュアスケートの歴史に残るような彼らの対決になりそうだ。

エフゲニー・プルシェンコと同じリンクで練習する羽生結弦
エフゲニー・プルシェンコと同じリンクで練習する羽生結弦
 ご存知の通り羽生は、ソルトレイクシティでのプルシェンコVSヤグディン(ロシア)を見て、オリンピックへのあこがれを強くしている。子供時代はプルシェンコをまねた髪型をして「ゆづシェンコ」と呼ばれていたとか、ローカル試合で優勝すると、プルシェンコがするようにトロフィーを得意げに観客席に掲げて見せたとか、そんなエピソードには事欠かない。

 2010年に世界ジュニアチャンピオンとなり、アイスショーで憧れの人と接する機会が増えると……。

 「練習時間にプルシェンコさん、僕にビールマンスピンを教えてくれたんですよ!」

 「俺に勝てよ! なんて言われちゃった!」

 「いろいろ教えてもらってたら、彼の奥さんが怒り始めちゃったんです。『もうその子には何も教えるな』だって(笑)」

 そんな嬉々とした言葉を聞いた時は、まさかオリンピックで、こんな形で、ふたりが初めて対戦するとは思いもよらなかった。10歳以上年の離れたふたりがあいまみえることは、年上の方がよほど長く第一線に立ち、年下の方が誰よりも早く成長して同じ舞台に上がってこなければ不可能だ。

 世代の違うスーパースターふたり、彼らふたりともがその難条件をクリアし、ついに初対決を迎えたのが、オリンピック史上初の団体戦だったとは――こんなドラマを、「ビールマン、教えてもらっちゃった!」とはしゃぐ少年の姿から、誰が予想できただろうか。

団体戦のSPで演技するエフゲニー・プルシェンコ団体戦のSPで演技するエフゲニー・プルシェンコ
 初対決の団体戦。羽生はこの数年で身につけたスケートの深さ、滑らかさ、スピード、そして現在の採点システムで高得点を出すために精緻に組み立てられたエレメンツで、憧れの人に差をつけた。

 4年前のバンクーバー五輪の時も同じことを感じたが、試合への出場数が少ない分、プルシェンコはいかに得点を稼ぐかの細かな対策という点で、少し詰めが甘いように見えてしまう。

 しかし羽生自身も、フィギュアスケートはそれだけではないことはわかっているだろう。得点の上で勝ったとはいえ、存在感、オーラ、観客を離さない引力では、完全にプルシェンコが彼の上だったことを。

 ロシアの観客の前だから、ではない。たぶん日本のアイスショーでふたりが今日の演技をしたとしても、拍手はプルシェンコの方が多かったはずだ。

フィリップ・キャンデロロフィリップ・キャンデロロ
 そしてそんな要素点に現れないものの重要さは、羽生自身もよく知っている。プルシェンコだけでなく、フィリップ・キャンデロロ(フランス)など往年のスターとショーで共演した時も、「やっぱり彼らは違うんです。ジャンプなんてダブルアクセルしか入っていないのに、見ていると涙が出てくるんですよ……」などと感動し、同時に悔しがっていた。

 たぶん今回も、勝負には勝ちつつ、自分にまだないものをプルシェンコが見せつけたことを、彼は感じている。そしてそれを、とても悔しがっているはずだ。

 ならば次の対戦、2月14日、15日の男子個人戦、ショートプログラム――初対決で得たものを、どう消化して再戦に臨んでくるか。羽生結弦の再登場が、いっそう楽しみになってしまった。

 思った以上に羽生にとって大きかった、団体選出場の意味。彼だけでなくこの新種目、フィギュアスケート団体戦は、思いもよらなかった影響を今回のオリンピックに与えそうだ。

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