2014年02月11日
「今回はとにかく、オリンピックのすべてを楽しもうと思います!」
ちょうど4年前、バンクーバー五輪への高橋大輔の臨み方は、ひとつの理想形だった。選手村での生活を、町でのショッピングを、彼は存分に楽しんでいた。もちろん、アスリートにとって最高の舞台であるオリンピックの氷の上に立てること、この場所で戦えることも、思い切り楽しんでいた。楽しみながら、ケガ明けの身体で激戦を戦い抜き、難しいと予想されたメダルも手に入れてしまったのだ。
右膝十字靭帯断裂という大けがを乗り越えての、出場。しかも堂々全日本チャンピオン、絶対エースとして最も活躍を期待されるなかで、なぜ彼は、あそこまでオリンピックを楽しめたのだろうか?
「僕はトリノでね、荒川さんの様子を間近に見ているんですよ」
初出場で、「自分はいっぱいいっぱいだった」トリノオリンピック。すぐそばにいた荒川静香が、毎日のようにジェラートを食べたり、練習もマイペースに滑ったり、自在に楽しんでいる姿を目の当たりにしたのだ。一生に一度、あるかないかのオリンピック。Competitionではなく、OlympicWinter’Game’。これは試合ではなくゲームなんだ、と、楽しんで勝つ姿。自分も2度目のオリンピックは、あんなふうに過ごしたい……そんな思いのままに堪能して、4年前は結果をも手に入れた。
「今回は……重い。やはり選ばれた過程で大きな期待もかけていただきましたし、あの氷に立てない多くの選手の思いの深さも知っている。ここで最後の五輪、という気持ちもありますし……これまでの2回にはなかった、重さを感じています」
スケート関係者ならば誰もが認めるところだろうが、高橋大輔は、日本のフィギュアスケート史上最高のスケーターだ。
人々を魅了する氷上のパフォーマンスの巧みさ、特に彼だけの華やかさ、抒情の細やかさ、さらには艶やかさや妖しさで、心を鷲掴みにする魔力。
そんな表現者の力に加えて、10代のころから27歳になった今季まで、一度も4回転ジャンプをプログラムから外したことのないアスリート魂。さらには、ここぞというときに大技を決めて勝利をもぎ取る集中力や、勝負勘の強さまで合わせ持つのが、彼のすごさだ。
スポーツとアートの狭間にあるフィギュアスケートにおいて、どちらかに秀でている選手は多いものの、両方の力をここまで高いレベルで持ち合わせた選手は、日本のフィギュアスケート史をすべて見回しても、彼しかいない。ソチ五輪は、そんな男の最後のオリンピックになるかもしれない舞台なのだ。
そして彼の言動や心の動きを追っていると、アスリートらしい気持ちの高度なコントロール力と、アーティストらしい自由で気まぐれなマインドが、共存していることに気づく。例えば
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