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《シリーズ》ウェブとジャーナリズム 早大Jスクール 田中幹人准教授インタビュー(1)

聞き手:矢田義一WEBRONZA編集長

 クラウドサービスやビッグデータという言葉を聞く機会が増えてきた。ビジネスやマーケティングばかりではなく、ニュースや報道、ジャーナリズムの分野への影響も少なくない。ネットメディアやSNSが当たり前になり、パソコンに加え様々な携帯端末が普及するなか、ジャーナリズムはどこへ向かおうとしているのか。ウェブを含めた科学技術ジャーナリズム研究が専門の田中幹人・早稲田大学 政治経済学術院ジャーナリズムコース准教授に聞いた。シリーズでお伝えする。

*  *  *

Q. ビッグデータの活用とかデータジャーナリズムという言葉をよく聞くようになりました。どういうものでしょうか。

田中幹人氏。データそのものの信頼性の問題を指摘する田中幹人氏。「データそのものの信頼性の問題もある」と指摘する

田中 いろいろな定義がありますが、短く言うなら「データによって行われ、データを参照しながら進められるジャーナリズム」という言い方が良いのではないかと個人的には考えています。「データの中から現れる議題(アジェンダ)」を取り出すのがデータジャーナリズムという言い方もありますが、それは少し違うと思います。

 データの中から現れるという言い方には、データというものは客観的で、自然に立ち上がるようなイメージがありますが、そうではないからです。データをどうやって取り出すのかと言えば、取り出す人、解析する人が、その人の価値判断で、「ここに問題があるのではないか」というような予断をもって取り出す。しかも一定のアルゴリズムを適用するわけで、ある種の傾向や方向性などをそもそももっているということですから。

Q. 厖大なデータを扱うとなると難しそうです。

田中 大学での私のウェブジャーナリズムの授業はいま、事実上データジャーナリズムの授業になってきています。ウェブ上のデータを収集、整理し、マッシュアップする基礎的なスキルを教えると、ウェブ上にあるデータを使って、例えば原発事故の汚染状況の地図を描くことも学生でもすぐに可能になります。それはツールのものすごい発達があればこそですが、すでにそういう時代になっているのです。

Q. それは新たな可能性を感じますね。

田中 ただ、多くの方々が議論されているように、問題もあります。データジャーナリズムとはいうものの、現状は「グーグル」ジャーナリズムになっている面があるからです。グーグルが収集する情報、そしてグーグルが提供する便利なツールを使うことで可能になっており、こうしたグーグル依存ともいうべき状況が、果たして健全なのかどうかは議論の余地があります。

 また、データそのものの信頼性という問題もあります。例えば、アメリカなどでは、告発者が誰か分からないままデータだけが届いた、というような状況を想定し、そこから取材を始められるのか、そもそも始めるべきなのか、という実際的な議論が始まっています。

 「Tor」のような匿名での通信を行うためのソフトウェアをつかえば、発信元を特定されることなく、インターネット上でデータを授受することは可能です。ウィキリークスなどもこうした技術的に基づいています。ウェブ時代の報道機関や記者はこうしたことへの対応まで求められている。こうしたことについては日本のジャーナリズムはまだあまり視野に入れていないのではないでしょうか。

 極端なことを言えば、特定秘密保護法に反対するなら、「Tor」のような告発窓口を準備して、使い方も節目下上で、告発者から情報やデータを受け取ればいい。「情報源は私たちも技術的にわかりようがありません」と口をつぐんで、どこかの告発者から受け取ったデータを分析してスクープを出す、ということもありうる。もちろん、その場合にジャーナリズムと政治的圧力とのあいだで、

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