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[8]プルシェンコ棄権。ロシア人は「次の主役は羽生結弦だ」と認めたらしい

青嶋ひろの フリーライター

 思い出すのは、2年近く前。新しいコーチとともに再スタートを切るべく、カナダ・トロントに渡ったばかりの彼と、ショッピングセンターの騒々しいカフェで話をしたときのことだ。

 「ブライアンの評価はずいぶん高いね。ユヅルは複数回オリンピックで勝てる、って言ってるよ」

 少し前に新コーチのブライアン・オーサーに話を聞いていた筆者は、そんな話題で彼を囃し立てた。

 「複数回――ソチと、ピョンチャン? まだ17歳なんだから、ピョンチャンとその次、でも十分行けるね」と。

 すると結弦は、ふふん、という感じで笑って、こう答えたのだ。

 「もうここまで来たら、ソチも取っちゃいましょうよ! せっかく世界の銅メダルも、もう取ったんですよ。この勢いで、行っちゃいましょうよ!」

男子SPで首位に立った羽生結弦拡大男子SPで首位に立った羽生結弦
 まるで、「ここまで来たら甲子園、目指しちゃおうぜ」とでも言っているような口調だ。「そうだねえ、できるといいねえ」と答えながらも、正直その時は、ソチはまだ早いな、と思っていた。

 なんとなくだが、描いていたのは、ソチの優勝は、高橋大輔。羽生は表彰台でそのひとつかふたつ下の位置に立ち、そこで悔し泣きをするのだ。

 たとえば、彼の方が4回転を2回跳び、4回転1回だった高橋に負ける、という展開。その悔しさで、ジャンプだけではダメなんだと気づき、ピョンチャンに向けて素晴らしいパフォーマーになっていけばいいな、と。

 ところがソチの時点で、羽生はもう世界で一、二を争う、プログラムコンポーネンツゲッターだ。今回のショートもパトリック・チャン(カナダ)に続いて2番目に高い得点を得(チャン47.18、羽生46.61)、5つの構成点のうち、「パフォーマンス」ではチャンを上回ってしまった。

 「ジャンプだけじゃない」なんてことはもうとっくに気づいていて、スケーティングからステップから感情表現から、どんどん磨きをかけていた。ソチで優勝はまだ早いよ、なんて思ってしまったその時のことを、今は謝らなければいけない。羽生結弦の力を、まったくもってはかり切れていなかったな、と。

SP直前に棄権したエフゲニー・プルシェンコ 拡大SP直前に棄権したエフゲニー・プルシェンコ
 ショートプログラムの日、ソチのアイスバーグの雰囲気が、団体戦から大きな変化があったこともまた、面白かった。

 エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の残念すぎる負傷棄権から始まり、ジェレミー・アボット(アメリカ)も大きく4回転を転倒し、演技になかなか戻れないシーンがあった。

 ブライアン・ジュベール(フランス)が五輪出場4回目にして初めて、ショートプログラムでパーフェクトなジャンプを見せたにもかかわらず、点数ができらないことも切なかった。

 さらにはケガの影響が出たのか、高橋大輔の4回転失敗……。

 長く男子フィギュアスケートを支えてきた愛すべきベテランたちが、次々と苦しげな顔でアイスバーグを去るなか……若い羽生のきらきらとした成功は、多くの観客の注目を浴びていたのだ。

 お目当てがプルシェンコだったお客さんは、ロシア勢がひとりもいなくなってしまった試合後半、 ・・・ログインして読む
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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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