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[9]羽生結弦を中心に始まった「4回転時代」への新たな挑戦

青嶋ひろの フリーライター

 ソチ五輪での、男子シングルフリー。試合としては上位ふたりを筆頭にミスが多く、他にも4回転を転倒する者が相次ぎ、試合としては盛り上がりに欠けるものだった……という意見も多い。確かに今回の男子シングル、思い返せばショートプログラムからミスの目立つ試合、特に4回転の転倒はいつも以上に目にすることが多い一戦となってしまった。

 オリンピックという4年に一度の場だからこそ、パーフェクト演技続出! という壮絶な展開が見たかった……というのは、正直なところ。

 試合の開始時間が遅かったためではないか、とか、リンクの氷の質が通常と違っていたのではないか、とか、ミス続きの理由を探す動きも見られたが、筆者はひたすら、男子シングルの競技性そのものに起因するのではないか、と思う。

金メダルの羽生結弦拡大金メダルの羽生結弦
 考えてみてほしい。4回転を跳んで、その他の要素ももれなくレベル4が求められ、プログラム構成点で演技力や滑りこなしも細かくチェックされる……そんなオリンピックは、実は初めてなのだ。

 4年前はチャンピオンが4回転に挑戦しなかったことで話題になったし、8年前はまだ新採点方式がスタートしたばかりで、システムが成熟していなかった。今ほどジャンプも跳べてステップ、スピンも最上級、パフォーマンスで観衆を引き込み……そのすべてを求められる時代は、かつてなかったのである。

 それでもこれまで、グランプリシリーズや四大陸選手権、世界選手権ならば、この複雑な要素のすべてを満たした、完璧に近い演技を何度か見ることができた。今シーズンでいえばグランプリシリーズ・エリック杯でのパトリック・チャン(カナダ)、NHK杯での高橋大輔、スケートアメリカでの町田樹のそれぞれのフリーは、オリンピックでもう一度見たかった……そんな演技だろう。

 しかしすべての要素にハイレベルを求められることにプラス、オリンピックという場の尋常でない緊張感が加わると、ミスの少ないはずのトップスケーターでもこうなってしまう……それが、ソチオリンピックだった。

 新採点システム、かつ4回転時代の過酷さ――これは、女子シングルと比べてみてもよくわかる。

 女子は現在、4回転やトリプルアクセルを跳ぶ選手はほとんどなく、3回転‐3回転がジャンプの主流。どの選手も精度の高いジャンプだけでプログラムを構成しているため、勢いミスのない演技が続きやすい。

 良い例として、今季の全日本選手権を思い出してみよう。男子の試合もすごかったけれど、やっぱりミスは多かったね、それに比べると女子はさすがに強い、みんなノーミスじゃないか――などという声があがったが、それは男子に酷というもの。男子も女子も同じくらいの緊張感のなかで、決死の戦いをした。しかし女子の方がパーフェクトの出やすいジャンプ構成だった、というだけだ。オリンピックでも女子シングルでは、3回転‐3回転を確実にこなすクリーンなプログラムをたくさん見られることだろう。

 では、バンクーバーからソチへの4年間に激化した、4回転競争。この流れには、歯止めがかかるだろうか。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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