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[11]羽生結弦を待ち受ける過酷な道。それを乗り越えるのは彼のクレバーな視点と思慮の深さだ

青嶋ひろの フリーライター

 とにもかくにも、史上稀に見る、10代のオリンピックチャンピオン誕生である。

 10代のチャンピオンはディック・バットン以来66年ぶり、とのことだが、バットンは今から10年ほど前まで、アメリカのテレビ放送で辛口解説者としてならしていたおじさんである。あまりに好き勝手にきついことを言うので、「なんなの、このおじさん?」「なんだか実は、すごい人らしいよ……」という会話が何度となく繰り返されていた、あの、ディック・バットン! 

 もちろん滑る姿など、見たことはない。そんな人物以来の10代チャンピオンとは……彼のなしとげたことの大きさが、よくわかるというものだ。

 しかしここからが羽生結弦にとって、茨の道だ。彼自身が一番驚き、一番悔しがっているだろう、今回の勝ち方。チャンピオンらしい演技での勝利でなかったことは、彼自身が一番よく知っているだろうし、この先何をしなければならないかも、よくわかっているだろう。

フラワーセレモニーで声援にこたえる羽生結弦拡大フラワーセレモニーで声援にこたえる羽生結弦
 次の世界選手権で、あるいは4年後のピョンチャン五輪で、チャンピオンにふさわしい演技を見せること。ほかの誰かではなく、ソチでの彼自身の演技を、超えて見せることだ。

 こうなってくると、他者に勝つことよりももっともっと難しいことが、彼自身には課せられてしまったかもしれない。

 前稿(「羽生結弦を中心に始まった『4回転時代』への新たな挑戦」)に詳述した通り、現在の男子フィギュアスケートは、あまりにも高難度なエレメンツの数々と、他の芸術と並んでも見劣りしないほどのパフォーマンスの両方を求められる、ちょっとありえないスポーツになってしまった。

 それでも彼らはアスリートである以上、目指さなければならない。自分たちの作ったこのスポーツの求めるもの、たどりつかなければならない場所はある。その先陣を切るべきポジションに立ったのが、羽生結弦だ。

 彼に、そんなことができるのか? もちろん、大丈夫だ! 今回の金メダルはうれしいだろうが、「これで俺は五輪チャンピオン!」と過信することなど、彼ならばないだろうから。

 2012年の秋、スケートアメリカのショートプログラムで、初めて史上最高得点を更新した後。彼に聞いたこんな言葉を思い返してみたい。

 「ここから先、僕が22、23歳くらいになったころ――自分がみんなを引っ張っていけるような選手になれたら、うれしいですよね! 
 そんな存在だったのが、パトリック(・チャン)選手であり、(エフゲニー・)プルシェンコ選手です。彼らはあまりにも強くて、ひとりでタイトルを総なめにする状況を作ってしまった。誰も彼には勝てない、そんな口惜しさが、世界中の男子みんなに芽生えた。みんなが、プルシェンコを負かそう、パトリックを負かそう……そう思って、すっごくうまくなって、時代は変わっていったんです。
 時代を変えていくような選手は、必ずいます。だから自分は、そんな存在になりたい。パトリック選手がいても高橋(大輔)選手がいても文句がないくらい、しっかりトップにふさわしい選手になりたいんです」

 また同じころ、早くもソチ後の男子シングルのことを、こんなふうに予想もしてくれている。 ・・・ログインして読む
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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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