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希少難病の今から“不安社会”の突破口が見える

田中敏恵 文筆家

 遠位型ミオパチー、という固有名詞を聞いて、一体何人がそれを認識するだろうか。“エンイガタミオパチー”とは、だいたい20代で発症することが多い病名で、時間を追うごとに筋肉が萎縮してきてやがて機能しなくなってくる。百万人に数人ともいわれる希少難病だ。中岡亜希さんは、日航の客室乗務員時代にこの遠位型ミオパチーを発症する。聞いたこともなかった病名を知らされ、家族や友人の支えを受けながらも病と向き合う姿は、2011年に刊行された著書『死なないでいること、生きるということ』に詳しい。医師の診断後、患者のおかれている状況への憤りを感じたという。

 「希少難病といわれる病気は7000ほどあるといわれているのにも関わらず、国が認知対策として医療費や研究費の助成をしているのは5%ほどです。ほとんどの希少難病が、国の援助がないことで、薬をはじめとした治療法の研究や開発もままならない状況である、ということを発症して初めて知りました。現状を見直そうという動きはありますが、国の対応含め、抜本的な改革にはまだ遠いように思います」

 国が認知し、支援の対象としている希少難病は、7000のうちの5%ほど。残りの大多数は、国の支援も受けられず薬の開発などの治療法へのアプローチもままならないのだ。数十万、百万に人にひとりという確率での疾病は患者数全体も少ない。マジョリティではなく、少数派のへの対応が後回しになる…。これは、現代社会の構図の縮小版といえるようにも思う。先日の豪雪で身動きがとれなくなってしまった地域の人々への国の対応が、後手後手にまわったことが、ネットを中心に大きな批判を受けた。これも「困っている少数派の声がなかなか中央に届かない」という意味では、希少難病と根本的には同じ構図ではないか。中岡さんも、希少難病のおかれている状況はそこだけに留まらないという思いを抱いている。

 「当事者が少ない事柄は、他人事であると捉えられることが多いのは確かにあると思います。けれど、小さな問題にこそ目を向けないと、大きな問題だっておざなりになっていってしまうのではないでしょうか」

 現在彼女は、NPO法人「SORD(ソルド・希少難病患者支援事務局)」の副代表として、講演やラジオDJなどの活動を精力的に行っている。また、日本にはないようなデザインや楽しみ方が出来る“JOY目線”の福祉用品を広めるために、株式会社「free×FREE project」を立ち上げた。「病気になる前よりも、今のほうがずっと充実している」と言い切る。その人生を輝かせている源は、一体何なのだろう。常に念頭においているのが、「明るさと楽しさ、それが希望を感じられるかどうか」だという。

 「自分のまわりが楽しい場所であるかどうか。明るい場所でいられているのかどうかが大事だな、と強く思います。つい暗くなりがちな状況ですが、暗さを全面に出したとして誰も幸せになんてなれません。楽しい場所には人が集まってくる。それにはまず自分が楽しまなければ。そこからしか前進はないと思うんです。楽しさは伝染しますから…」

 楽しい場所には、人が集まってくる。中岡さんは、仲間たちとそれを行動で示している。SORDが主催し、3月1日に京都で行われる「R-7000 LIVE & MARKET Donation Party 2014 in KYOTO」も

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