メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[16]浅田真央、「最高の演技」の真実(2)

トリプルアクセル以外に見せた大技

青嶋ひろの フリーライター

(承前)しかしそんな思いとは別に、この夜。

 ただひとつだけ見られた「最高の演技」は、浅田真央のラフマニノフだった。

 これは自慢だが、筆者はもう12年も浅田の演技を見続けている。それぞれの年齢で、それぞれの味わいで、彼女は「最高の演技」を何度も見てくれた。滑る喜びしかそこにないようだった2002年の全日本選手権、ひとりだけ違うスポーツをやっていたような05年のグランプリファイナル、持てる力のすべてをさらけ出した09年国別対抗戦……。

フリー演技を終えた浅田真央フリー演技を終えた浅田真央
 そんななかでも間違いなく、ソチオリンピックの浅田のフリーは、彼女史上最高の演技だ。

 私もそう思ったし、彼女自身も「自分の中の最高の演技ができた」とコメントをしたという。こんなことはほんとうに、めったにない僥倖ではないだろうか。

 冒頭のトリプルアクセルを、今シーズン初めてクリーンに決めたとき。脳裏をよぎったのは、中学2年生の彼女のこんな言葉だ。

 「ぶるぶるっ! と来たとき、ぴゅっと跳べるの!」

 トリプルアクセルだったか、あるいは当時挑戦していた4回転だったか。長野県・野辺山、夏の全日本合宿で夜になってもまだ練習をしていた彼女が、ジャンプがうまくいかないと言いながら、ギャラリーの私たちのところにちょっかいを出しに来たときだ。そこで、「跳べない跳べない」と煮詰まっていた彼女に、「跳べるのはどんな時なの?」と聞いた時の答え――。

 真央ちゃん、もうほとんど長島(茂雄)さんだね、などと大笑いしたのだが、この夜の彼女はどうだったのだろうか。

 ぶるぶるっときて、ぴゅっとトリプルアクセルを跳んでしまったのだろうか? たぶんどんなに大人になり、どんなに練習を重ねても、頭で考えるのではなく、感覚で「ジャンプを跳ぶ感じ」を身体に染み込ませていく彼女のことだ。きっと夢にまで見たオリンピックのトリプルアクセルも、ぴゅっと跳んでしまったのだろう。

フリーでトリプルアクセルを成功させた浅田真央(画面右から、14枚を合成)フリーでトリプルアクセルを成功させた浅田真央(画面右から、14枚を合成)
 さんざんその挑戦に疑問を呈してきた筆者だが、一番跳びたい大舞台で、彼女がそれを成功させたこと、佐藤信夫コーチの言う「彼女の夢」がかなったことに、驚きと嬉しさを抑えることはできない。

 その後も、もう彼女が跳ぶことは不可能だと言われていた、3回転フリップ‐3回転ループに挑戦。今大会、3回転‐3回転を跳んだ女子選手は12人いたが、後ろにループをつけたのは、浅田だけ。筆者はトリプルアクセル以上に、この「フリップ‐ループの3-3」に、ここで彼女がチャレンジしたことに喝采を送りたい。

 女子の3回転‐3回転は、男子の4回転に匹敵するジャンプだと言われている。男子選手の場合、パワーがあるためにある程度は力づくでセカンドジャンプをつけることが可能だが、女子選手はその点で乏しい。彼女たちはあくまで技術のみで、ふたつ目のジャンプを跳ばなければならないため、男子以上の難関なのだ。

 また浅田の場合はファーストジャンプが6種類中3番目に難しいフリップ、セカンドジャンプがトウループより難しいループ(セカンドに付けられるのはトウループとループのみ)。これは安藤美姫の得意としていたルッツ‐ループの3回転‐3回転に次ぐ、高難度の3-3だ。

 なぜ安藤と浅田がともに、セカンドジャンプにトウループではなくループを跳ぶのか? 

・・・ログインして読む
(残り:約1039文字/本文:約2405文字)