メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

橋下さん、敵は誰?/政争が招いた「失われた3年」

前田史郎 朝日新聞論説委員

 陸に上がったカッパに水をやることはないーー。橋下徹大阪市長が満を持して打って出た出直し選は、野党からこうやゆされ、ひとり相撲に終わりそうだ。自らの人気に頼み、選挙で得た民意で局面を切り開く。その政治手法は大きな曲がり角を迎えている。このまま干上がってしまうのか、それとも再選後に秘策があるのか。「橋下流」が崖っぷちにあるのは間違いない。

          ■

 2月25日。市長最後の日の前夜、橋下氏は大阪市天王寺区で開かれた大阪維新の会のタウンミーティングの会場にいた。大阪都構想が実現すればいくらの税金が浮き、どんなメリットをもたらすのか。用意したボードを前に、1時間あまり、指示棒を振り回して熱弁をふるう。


 「だいたいねえ、メディアは頭悪いですねえ。あんな世論調査はいい加減です」

 都構想の具体像がつかめない。そんな結果を報じた新聞やテレビ局を批判し、返す刀で都構想に反対する市議会の自民、民主、公明、共産各党にも批判の矛先を向け、抵抗勢力にぶつかる立場を強調してみせた。
会場は約300人の市民が詰めかけ、満席だ。

 だが、聴衆は中高年層が8割がたを占める。学生らが多く参加し、若い人を投票所に向かわせた2年3カ月前の大阪ダブル選挙の時とは、明らかに雰囲気が違っていた。

 「中学校の給食を全校で実施します」「小中学校にエアコンをつけます」と橋下氏が実績を強調すれば、「そうだ」「素晴らしい」とかけ声がかかり、「大阪市役所の改革は僕だからできた」との自慢には「いいぞ」「ありがとう」と拍手がわきおこった。

 今回の選挙で、野党は対抗馬を出さず、橋下氏の空振りを浮き立たせる戦略だ。それを意識してか、橋下氏の選挙戦術は徹底した「説明行脚」である。維新の会幹部によると、街頭に立っての演説会よりも、「1000カ所で都構想の説明会を開きたい」という。

 しかし、この日はコアな橋下氏の支持者を集めた仲間うちの決起集会という印象。しかも橋下氏がいったい誰に怒り、誰と闘おうとしているのか、最後まで焦点が定まらなかった。

 大阪都構想の設計図づくりで市議会の理解を得られない。だから野党が「敵(かたき)役」なのだろうが、これだけでは大阪都の是非で大論戦した前回選挙と違い、その姿がふがいなくすら見えてしまう。

 「橋下劇場」の成功には、敵が明確で、そこへ立ち向かう大義のわかりやすさが欠かせない。舞台仕立てに無理があれば劇場化は難しい。

 約2時間のミーティングが終わった後、会場から出て来た70代の男性は「やっぱり大物政治家やわ。総理になれる」といい、都構想については「具体的で良かったんちゃう」とだけ答え、足早に去った。

 大阪市民が選挙で盛り上がっているとは、とても言えない状況だ。
          ■

 なぜこんな出直し選に打って出たのか。大きな理由が、公明党の「変貌」だった。

 2月3日、橋下氏は大阪市内で開いた辞任会見で、「約束違反」と強調した。

 話は2012年9月7日にさかのぼる。橋下氏と松井一郎・大阪府知事は、公明党の白浜一良副代表(当時)と会った。

 テーマは迫りくる衆院選挙。白浜氏は、前回選挙で失った小選挙区の大阪の4議席と兵庫の2議席をあげ、「次は奪還したい」と話した。「常勝関西」の復活を狙う公明にとって、初の国政に挑む維新の動向は気になる。

 橋下、松井両氏は、公明党が候補者を立てる選挙区で維新の候補者を擁立しないと約束する。その代わりに都構想の実現に協力を要請し、確約を得た--というのだ。

 大阪市議会で過半数をもたない維新にとって、市議会で維新に次ぐ第2勢力の公明党の協力は、都構想を前に進めるには鍵を握る。

 「僕を生かすも殺すも公明市議の皆さん次第。団結して共に歩みを進めたい」

 2年前の公明党大阪府本部の新春年賀会で、橋下氏はそこまで語っていた。

 当時、維新の勢いは今とは比べものにならない。とくに衆院選で大阪の4選挙区に擁立していれば、十分に勝てた、という思いが強い。ただ約束といっても、党同士でかわした文書があるわけでもない。選挙協力は都構想協力への ・・・ログインして読む
(残り:約1291文字/本文:約2997文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

前田史郎

前田史郎(まえだ・しろう) 朝日新聞論説委員

1961年生まれ。神戸、広島支局、東京・大阪社会部で事件や行政、核問題、厚生省クラブなどを担当。社会部デスク、教育エディター、大阪・社会部長、同編集局長補佐、論説委員、編集委員、論説副主幹(大阪駐在)を経て18年4月から現職。気象予報士。著書に『核兵器廃絶への道』(共著)。

前田史郎の記事

もっと見る