いつか人々を陶酔させるあの演技を!
2014年03月01日
今回は悔しいことに、ふたりともが本来持っている音楽表現、感情表現を存分に見せることはできなかった。
オリンピック初挑戦の村上佳菜子は、戦いの場所がいつもとはまったく違うことに、驚いてしまったのかもしれない。フリープログラムではジャンプのミスが続いただけでなく、動きが音楽に流されてしまう、まったく佳菜子らしくない演技を見せてしまった。
「たくさんたくさん練習してきた」ぶんだけ、身体はよく動いてはいる。でも、もしすべてが出し切れればオリンピックチャンピオンにだってふさわしい、気持ちがはじけ飛ぶような勢いのある演技、村上佳菜子の真骨頂は、最後まで見せられなかった。
2013年12月、浅田を破って2位に入った全日本選手権だけではない。12―13シーズンの世界選手権でも、今シーズンのロシア杯フリーでも、村上は会場の空気が震撼するほどの演技を見せていたというのに。
思えばジュニア時代、チャップリンの花売り娘に扮したり、切れ味抜群のフラメンコを踊ったりしながら、全日本ジュニア優勝、世界ジュニア優勝……と頭角を現してきたとき。この年齢で素晴らしく達者にプログラムを踊りこなす技術に、とても驚いた覚えがある。
「はい、踊ることは、ただただ楽しいから好きです。ちっちゃいころからもう、踊るの大好き! 幼稚園の頃からバレエを習ってきたし、ジャズダンスとかを習いに、ダンススタジオにもずっと通ってます。まだまだ自信、っていえるほどのものはないけれど、踊ることは大好き! でも『きれいな踊り』は、まだダメダメなんです(笑)。カナの踊りは、イエー! みたいな感じの踊りばっかり! がんばれば踊れちゃう、そんなノリの踊りなんです。」(09年のインタビューより)
そんな言葉を残した15歳の頃から、村上佳菜子は美を「作り上げること」に長けていた。
それが時には、愛される自分を作っているようにも見えたかもしれない。
しかしその根底には、「好かれたい」「かわいいと思われたい!」という私たちがよく知っている感情が流れていたから、笑顔を振りまく彼女を見ていても、悪い気はまったくしないのだ。かわいい佳菜子を作っている、そう見えたとしても、こちらに愛されたい気持ちをまっすぐに向けられるのは、とてもうれしいことだから。
だから村上佳菜子は、演技を褒めるとほんとうにうれしそうな顔をしていた。そして「ほめられてうれしい!」、その気持ちは、100%心からの喜びだった。
そんな彼女は氷の上でも、とことんまで自分を作り、演じきる。山田満知子という同じコーチを師系に持つため、「ポスト真央」などと呼ばれたこともあったが、実は村上ほど浅田と真逆の演技スタイルを持つスケーターはいない。浅田真央にはない
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