メディアの大騒ぎがプラスに?
2014年03月11日
(承前) そして今回、大いに驚いたのは、誰もが社会の公器と信じて疑わない某大新聞(「朝日」ではない)が、「エイトトリプル」をメインに使い、派手な記事を書いていたことである。いわく、「通称『エイトトリプル』と呼ばれる演技構成」「女子フィギュア史上、最も難しい挑戦」とのこと。
いやいや、いつの間に「通称『エイトトリプル』」となっていたのか。「女子フィギュア史上、最も難しい挑戦」は、浅田真央が目標を設定しなおすたびに、ころころ変わるのか。
浅田のフリーは見事だったが、それとは別に、今回の「エイトトリプル」は成功とはいえない。回転不足やエッジエラーが付き、基礎点からマイナスされてしまえば、そのジャンプは成功ではない。
転倒なしでしのいだことを「着氷」と書き、失敗ではなかったと強調しようとするのも、文字媒体が近年使い始めた手法だという。
スケート連盟関係者も「あの言葉は、変。『着氷』なんて言い方、スケートにはないですよ」と苦笑いをしていた。すみません、「着氷」は私も何度も記事で使っております。
「どうしよう、**新聞まで『通称エイトトリプル』って言ってるよ?」
「まあまあ、いいじゃないですか。表現は作られることもあるので」
「私、ここまでの顛末、全部書いちゃおうかな!」
「それじゃあ主犯、自分になっちゃうじゃないですか(笑)。でも、波及効果は絶大でした……」
「どうするの! 流行語大賞にでもなっちゃったら。Nさん表彰されちゃうよ!」
「浅田選手が成功しなかったから、それはないですよ。仮に成功してメダルを取って流行語大賞になっても、表彰されるのは浅田選手ですからね」
表現は、作るもの――しかしここで、怒らないでいただきたい。
実は今回の「通称『エイトトリプル』」の蔓延。浅田真央にも悪くない影響があったのだという。
トリプルアクセルを1度に減らすという作戦変更、それはやはり、元々の目標を断念したことであり、アスリートとして悔しい気持ちはぬぐいきれていなかった。しかしまわりが「エイトトリプル!」と囃し立てるうちに、「新しい挑戦」は大きな意義があるものだと、彼女自身も納得し、気持ちを切り替えられた、と聞いている。
メディアが選手たちに及ぼす影響については、今回のリポートでも何度も書いてきた。「エイトトリプル」と書きたて、騒ぎ立てることが良かったとは思わないが、結果的に選手にプラスになったのだとしたら、それもまた有り。今回はメディアの大騒ぎがいい方向に作用した稀有なケースかもしれない。
荒川静香の「イナバウアー」も、元々あった呼称ではあるが、トリノ五輪の数年前、彼女がプログラムで披露するまでは、ファンもほとんどその名前は知らなかったものだ。
実は筆者もトリノ五輪で大きく取り上げられるまで、「イナバウアー」がイナ・バウアーさんの個人名から由来していることは知らなかった。
だからたとえば羽生結弦のショートプログラム、「パリの散歩道」のあのポーズ。
腰を落として滑りながら、両腕をまっすぐに伸ばして客席を指さす、あの印象的な振り付けも、「誰かが名前をつけちゃえばいいんだよ」と焚き付けていた。
「あれは何ていう技ですか?」とよく聞かれるので、羽生自身に聞いたところ、
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