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書店で受けるお薦め本の質問、そして読書による変化

白井恵美子 紀伊國屋書店員

 先日、大学生協より『大学生の4割が読書時間0』との発表があった。その数字に愕然としつつも、電車内や巷でのスマホ率を見ていると頷けてしまうのも正直なところだ。

 しかし、これはとても勿体ない事をしている事に気付いて欲しい。

 10代20代の頃、物事に敏感に反応し些細な事にも感動していた。今、同じことがあっても感動が薄くなったような気がするのは私だけだろうか。できる事ならお金を払ってでも取り戻したい感情の一つであると思っている。

 心の柔らかい、何でも吸収するスポンジのような心のうちに、沢山の読書体験をすることは非常に大切な事ではないだろうか。

 以前、私の勤務する店に大学生のアルバイトが入社してきた。私は緊張をほぐそうとまずは雑談から始めてみた。

 「本は何を読むの?」

 「…全く読んでいません。すいません」

 申し訳なさそうに俯いてしまい、さらに一層緊張させることになった。が、しかし学生との間にこういった会話は珍しいことではなく、よくある事なのだ。

 みんな本を読んでいるわけではないのだから気にしないでね、とおススメの本をいくつか紹介し、彼はそれを顔を赤らめながらメモをした。

 次に彼に会った時、第一声が「あの本面白かったです。また何か面白いのがあったら教えて下さい」と感想を伝えてきた。仕事柄、おススメの本を聞かれることが多いが、メモする人というのは少ない。しかもそれを実際読み、感想を伝えてきた事にとても感銘を受けた覚えがある。そして私は、そういう人を心の底から尊敬し、信用している。

 何かを薦めるものを持つという事は、その人が時間やお金をつかって、そしてやっと手に入れたもの、見つけたものである。なので、何の種類でも人にお薦めを聞く際は慎重になってしまう。だから、その彼の真摯な対応は非常に好感が持てた。

 それから彼は、周りからすすめられる本を読み、自分で読むべき本を選べるようになり、周りのする本の話題にも自然に入れるようになっていった。

 このような“きっかけ”はとても大事だと思う。

 心が形成された大人になってから、読書をすることが手遅れということではない。感性を豊かにする、文章力や集中力を高める等、大人になってからでも良い事尽くめだ。だが読書をしたいが何を読んだら良いか分からないという人も多いはず。

 そういう方には直接、書店に行ってみることを推奨する。表紙を見ているだけで世の中の流れや傾向が掴めたり、書店員が書いたPOPを参考にしても良い。少々勇気はいるかもしれないが、直接、書店員に聞いてみてしまうという方法もある。

 日々色々な問い合わせを受けるが、先日、このようなことがあった。年の頃は

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