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[2]スケート界に必要な選手は……

青嶋ひろの フリーライター

 オリンピックシーズンには、想像をはるかに超える出来事が起きる。

 オリンピックの男子シングルで、羽生結弦の優勝はなくはない、とある程度予想はしていた。若々しい魅力もたっぷりあるし、優勝したら人気者になるだろうな、と漠然と思ってはいた。

 しかし、ここまでの人気ぶり――世界選手権で高橋大輔のいないさいたまスーパーアリーナをいっぱいにしてしまい、週刊誌やワイドショーがこぞって特集を組むほどの異常な人気者になるとは、ちょっと考えていなかったのだ。

 「日本の人たちは、僕たちが思うほど羽生結弦を知らなかったんだよ」

 と、あるスケート関係者は言っていたが、その通り。

 17歳の若さで世界選手権の銅メダリストとなり、18歳でショートプログラムの世界最高得点を記録し、19歳でグランプリファイナル優勝。ソチ五輪での「もしや」もあるかもしれないこの若者は、スケート周辺の人々にとってはおなじみ以上の存在だった。

 が、一般の日本人にとってはまだまだ印象の薄い選手。だからいきなり出てきた日本男子初の五輪金メダリストに、「彼はいったい何者!?」という騒ぎになってしまったのだ。

 結果、4月のアイスショーは日本中で大盛況。若者は分刻みの取材スケジュールをこなし、黄色い声援の中で熱演を続けている。そんなアイスショーの告知ポスターで、絶対的な存在だった浅田真央を押しのけて、選手たちの写真の中央に陣取った羽生の姿を見て、思った。

 今後の去就をまだ明らかにしていない浅田真央が、もしも引退、あるいは一時休養などとなった時――羽生結弦は、彼女に代わる存在になれるのではないか、と。

 日本のフィギュアスケート人気が本格化してから、もう10年近く。

スターズオンアイスで=2014年4月11日、東京・代々木第一体育館スターズオンアイスで=2014年4月11日、東京・代々木第一体育館
 この間、浅田真央が担ってきた役割、ポジション、重責には、大変なものがあった。

 もちろん彼女以外にもたくさんの人気スケーターが揃ってこそのスケート人気ではあったが、それでも浅田ひとりがいるといないとでは、大きな違いだっただろう。

 浅田真央は人々の――スケートにさして興味のない人々の――注目を、このスポーツに集め続ける、そんな役割を果たしてきたのだ。

 ルールをよく知らない人でも、「真央ちゃんが出てるなら」テレビを見る。つまり浅田がいるから、テレビのゴールデンタイムでフィギュアスケートの放送がある。

 試合だけでなく多彩なイベントも、浅田真央がいるから一年を通して催される。時にはスケートリンクの存続など、重要な問題にも人々の注目を集めさせてきた。「真央ちゃんのやってるスポーツが、何だか大変なことになってるみたいだぞ」と。

 また、まずは浅田に興味をもってスケートを見るようになった人々が、男子やダンスでもお気に入りの選手を見つけたり、表面的でないスケートの楽しみを知る濃いファンになったりすることも多かった。

 韓国でもキム・ヨナが似た現象を起こしていて、まず人々はたった一人のヨナというスターに注目する。そこから国際的なスケート事情にも詳しいファンが増え、男子の高橋大輔やアイスダンスのバーチュー&モイア(カナダ)、ペアのパン&トン(中国)らが、韓国では大人気となった。

愛された高橋大輔の人間性

 視聴率や広告がらみの話に比べれば地味かもしれないが、そんなふうにスケートファンの裾野を広げる役割も、確かに浅田は担ってきた。そこまでの注目を集められる選手は彼女以外にいなかったし、スターとしての彼女の存在も、彼女が知らず知らずのうちに成し遂げてしまったものも、あまりにも大きかったのだ。

 だから多くの人々は、ここ数年、「ポスト浅田真央」探しに躍起だった。いつまでも、何年先までも彼女が現役選手でいてはくれない。放送関係者も、その他のメディアの人々も、スケート界の中心にいる人々も……スケート人気の凋落を望まない多くの人々は、「次の真央ちゃん」がなかなか見つからないことにこそ、恐怖していた。

 彼らの思惑とは裏腹に、

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