2014年04月29日
菅直人元首相が福岡高裁判決を確定させてしまった(2010年)ので、農水省は今度こそ開門せざるをえなくなった。
ところが、ここでもまた農水官僚の驚くべき「巧知」が発揮される。確定判決は、排水門の「開放」を命じている。「開放」とは、開け放すこと、つまり全開だ。
しかし、農水官僚は「開門方法までは指定されていない」と確定判決を勝手に読み変えてしまうのだ。
その際に利用されたのが、例の開門に関するアセスメントだ(連載(12)参照)。アセスは、2011年度に完了し、公表されたが、開門方法は以下の4案が示された。
(1) ケース1 最初から排水門を全開する。
(2) ケース2 調整池への海水導入量を段階的に増やし、最終的に全開する。
(3) ケース3の1 調整池の水位を70センチ変動させる。
(4) ケース3の2 調整池の水位を20センチ変動させる。
そして、海水導入量を増やすに応じて潮受け堤防の補強対策などに費用がかさむとされ、対策費用はケース1と2が1077億円、ケース3の1が239億円、ケース3の2が82億円とされた。この数字は、「1000億円以上もかかる『全開』はできませんよ」と暗に示していた。
2012年11月、当時の郡司彰農水大臣(民主党)は「ケース3の2以外の方法で開門した場合、防災上、営農上、漁業上の影響が大きい」ということを理由に、ケース3の2による5年間の開門が適当」と発表した。
ケース3の2とは、2002年の短期開門調査と同じで、これも開門の効果を最も小さく見せるための布石と言える。
しかも、この開門調査の目的は、諫早湾干拓事業と有明海の漁業被害の因果関係を調査することのはずなのに、そこがすり替えられているのだ。
その意味を、同省農村振興局の官僚はこう説明した。
「開門調査は干拓事業と漁業被害の因果関係を調べるものではなく、開門前後の有明海の環境の変化を調べる調査です。すでにシミュレーションで、開門の影響は諫早湾内にとどまり、有明海には及ばないとされているので、いわばその確認です」
だが、漁民だけでなくメディアも開門調査とは因果関係の調査だと捉えている。
たとえば、NHK長崎は、ニュース番組の中で「開門調査」の説明として「諫早湾干拓事業と漁業被害との関係を調べるための国の開門調査をめぐり~」という表現を繰り返し使っている。
「それは間違いです」
農水官僚はこう断言した。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください