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[17]守りたい「省益」

永尾俊彦 ルポライター

「不可抗力」というウソ

農水省を追求する馬奈木昭雄弁護団長(中央)、堀良一弁護士(左)、佐賀県有明海漁協大浦支所の大鋸武浩さん(2014年3月)拡大農水省を追求する馬奈木昭雄弁護団長(中央)、堀良一弁護士(左)、佐賀県有明海漁協大浦支所の大鋸武浩さん=2014年3月、撮影・筆者
 今年3月27日、東京の衆議院議員会館で行われた農水省交渉でも、前出の農地資源課の瀧戸淑章(たきど・としあき)課長(現九州農政局次長)は、漁民側に「(佐賀、福岡、熊本)の各県漁連を回りながら、一方で長崎県にも話し合いの場についていただけないかとお願いしている」と最近の対応を説明した。

 相変わらずどうような「話し合い」を実現するのか具体策を示さない対応に漁民側弁護団は苛立った。

堀良一弁護士 何を話すんですか、長崎県と。

瀧戸課長 長崎県は『(農水省が)開門しないと明言しなければ話し合いには応じられない』と言っていますが、それは置いておいて、『どう有明海を再生していくか』というテーマで話し合いに応じてもらえないかとお願いしているところです。

馬奈木弁護士 有明海再生は開門反対の人々には『私たち(農民に)には関係ない』と言われておしまいでしょう。漁民側は開門の旗を降ろすのには反対だが、今の調整池の汚れた水の代わりの水源をどうするかとか、(低地であるために雨が降ると農地に水がたまる)湛水被害の対策をどうするかというテーマなら糸口になるのでは。これなら開門と関係なくできるよね。

瀧戸課長 現状の調整池の水源があるのだから新たなお金をかける必要はない、というのが長崎の地元の農家の方々の意見です。ですから、代替水源の話をしても長崎の方々は乗ってこないと思います。

馬奈木弁護士 じゃあ何なら乗ってくるの。長崎県側が乗ってくる案を出してくださいよ。

堀弁護士 (開門に強固に反対している)背後地の農家の方々は、水不足でずーっと苦しめられてきたんですよ(連載第12回参照=2007年に完成した諫早湾干拓の干拓地以前に農水省が周辺で造成した干拓地は水源を地下水に頼っていたことから地盤沈下が起きるなどの欠陥があったことを指す)。それで、諌早湾干拓が完成すれば水源ができると思って我慢してきて、やっと完成した。そうしたら、農水省は水源になっている調整池に海水を入れることになる福岡高裁判決を受け入れ、最高裁に上告せず、確定させてしまってまた裏切られた。さらに、代替水源として再び地下水案を持ち出したり、海水を淡水化する施設を造るという実績の乏しい案を出してくる。3度目は騙されんぞと農家の方々は思っているんですよ。だから、まず農水省は農家にお詫びをする。そして、本当は干拓に頼らない水源の手あてをすべきだったと言って説得するべきなんです。そういう謙虚な姿勢がないと話し合いなんてできませんよ。

馬奈木弁護士 「調整池の水に依存しない水源はどうしたらいいでしょうか」と農家になぜ聞かないんですか。「今の汚れた調整池の水のままでいい」と農家が言うだろうか。農水省の案を押し付けても無理に決まっている。

堀弁護士 なぜ農民が反対するのかの原因の分析と課題を考えるところからどうすればいいのかという方針が出てくる。農家が反対する原因をどう分析しているんですか。

瀧戸課長 私たちが最高裁に上告しなかったことが、今、長崎県側との話し合いができない大きな部分であると私どもも思っています。長崎県側には、水源はどうすればいいのかと何度となく投げかけているのですが、「福岡高裁判決を受け入れたお前らが考えろ」と言われてしまうのです。そこで、精査した案が地下水と海水の淡水化施設だったのです。

馬奈木弁護士 地下水と海水の淡水化施設についてあなたがたは「地元の意見を聞きながらアセスをやった結果作った極めて合理的な案」だと裁判所に出した書面で言っているよね。「極めて合理的」なのに、地元では問答無用で拒否されている。そして、「地元の反対は(注意や予防をしても防ぎきれない)不可抗力だから(開門は)実行できません」と主張する。不合理極まりない案だから地元は反対するんじゃないの。

堀弁護士 従来から地下水で苦しんできた地元の人達に地下水案を提示するというのは見込み違いも甚だしい。むしろ、あえて地元が反発する案を出したとしか思えない。

瀧戸課長 地下水案も海水の淡水化案も必要な水量を確保できるか、費用はどうか、実現性はどうかなどの観点から見て安く早くできるという点で今も合理的だったと思っています。ただ、客観的な私たちの整理と地元の皆さん感情にはズレがあり……。

馬奈木弁護士 そのズレは予定してなくてよかったんですか。地元に喜んでいただける案じゃないと「合理的」とは言えないでしょうが。それが「不可抗力」となぜ言えるの。それはウソ! ・・・続きを読む
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筆者

永尾俊彦

永尾俊彦(ながお・としひこ) ルポライター

1957年、東京都生まれ。毎日新聞記者を経てルポライター。1997年の諫早湾の閉め切りから諫早湾干拓事業を継続的に取材。主な著書に『干潟の民主主義――三番瀬、吉野川、そして諌早』(現代書館)、『ルポ 諫早の叫び――よみがえれ干潟ともやいの心』(岩波書店)、『公共事業は変われるか――千葉県三番瀬円卓・再生会議を追って』(岩波ブックレット)など。