2014年05月21日
タイトルを駄洒落にしてしまったが、錦織圭選手の個別ニュースについては、とやかく論じる余地はあまりない。怪我さえしなければトップ10定着は確実な能力の持ち主であり、「万年トップ10前後」に甘んじてきたスタニスラス・バブリンカ選手(世界3位)が昨秋の全米オープンベスト4~今年1月の全豪オープン優勝でついに壁を越えたように、錦織にも1度2度は必ず4大大会優勝のチャンスが訪れる。それがたまたま、3月のマイアミでの快挙→怪我で4月のデ杯(東京)を欠場→5月にバルセロナ・マドリッドと2週連続快挙も怪我で棄権→ローマを欠場→全仏オープンも出場微妙、という波の中で、結果として瞬間風速的に出現したトップ10入り(9位)という結果が大々的に報道されているに過ぎない。
ランキングは毎週変動し、52週間前のポイントが消え、他の選手との比較相対で決まる、はかない性質のものだ。錦織自身も「まだ実感はない」。その点では、もともとトップ10に入れると期待された選手が、どうやって実際にトップ10に入るのか、をつぶさに見ることのできた貴重な体験を、日本人のみならず世界中がしたことになる。
9位という日本人男子未踏の地に踏み込んだことに対して、錦織自身も素直に喜ぶコメントを残している一方、アスリートとしてさらに上を目指す「4大大会優勝、トップ5」の観点は当然錦織の口から出てくるもので、その世界を現実的なものとして冷静にとらえる観点を与えた、元世界2位(あと1試合勝てば1位まで行った)、昨年末からコーチについたマイケル・チャン氏の存在は大きいと思われる。
チャンが言う「試合相手は何者でもない(特定の選手であることを意識してはならない)」という趣旨の繰り返しの発言は、錦織に重要な示唆を与えていると思われる。すでに3月にマイアミでロジャー・フェデラー選手に勝った時にも、勝った相手がレジェンドのフェデラーであることの喜びについて特に語らなかった(大会規模と勝ち上がりと自分の目標について主に語った)ことが象徴的であり、錦織自身もそう意識して語るようになってきていると思われる。
かつて東京(楽天オープン)で結果が出せず、日本でいい試合をしなければというマイナス面の緊張を隠さなかった錦織、去年の全米オープンでトップ10を目前にして「緊張」「無力感」のコメントを残して1回戦敗退した錦織が、自身の結果とともにどんな結果にも動じない精神面の成長を続けている。
一般人はスポーツの結果にすぐヒューマンドラマを求める。しかし
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください