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AO入試を育てるために~大手予備校AO担当講師が語る~

佐藤章太郎(株式会社ワカゾウ代表取締役)

東大、2016年度からAO入試を実施

 1月に東京大学から公表された『平成28年度推薦入試について(予告)』には、東大が求める人材とAO(アドミッションズオフィス)入試の実施理由がこう書いてある。

 「東京大学が求めているのは、本学の教育研究環境を積極的に最大限活用して、自ら主体的に学び、各分野で創造的役割を果たす人間へと成長していこうとする意志を持った学生です。・・・中略・・・入学試験の得点だけを意識した、視野の狭い受験勉強のみに意を注ぐ人よりも、学校の授業の内外で、自らの興味・関心を生かして幅広く学び、その過程で見出されるに違いない諸問題を関連づける広い視野、あるいは自らの問題意識を掘り下げて追究するための深い洞察力を真剣に獲得しようとする人を東京大学は歓迎します。・・・中略・・・東京大学の推薦入試は、学部学生の多様性を促進し、それによって学部教育の更なる活性化を図ることに主眼を置いて実施します。」

 AO入試を通して東大の求める人材像は、多くのAO入試を実施する大学においても共有する理念とみてよい。端的に言えば大学は「主体性、問題解決へ強い意識」を持つ生徒を求め、それを判定するツールとしてAO入試を選んでいる。では、どうやって公平に選考するのだ、どうやって生徒を育てるのだと疑問もまた反射的に感じる人もいるであろう。ここに理念と現場の乖離が現れる。

 文部科学省『平成24年度国公私立大学入学者選抜実施状況の概要』によれば、2012年の大学全入学者数59万人のうち、43%が推薦・AO入試で入学している。もはや制度そのものを否定すべき時代ではない。むしろ「主体性、問題解決への強い意識を持つ生徒を育てる内実を伴った入試制度として、AO入試は社会全体で不断に育てていく対象と認識すべき」と大上段に言いたい。そのためには現代社会におけるモチベーションとアイデンティティの確保の仕方や、歴史的正当性(後述)に対する論議を深めた上で、子供たちに誠実に手間暇かけて向き合う姿勢をわたしたちは持ちたい。

米国で一般的なAO入試

 そもそもAO入試とは、米国の大学で一般的に行われている、大学の入試担当部署(アドミッションズオフィス)による、その大学の理念に沿った生徒を多面的な評価基準を用いて選考する大学入試システムのことである。

 この定義だけを捉えれば、至極まっとうなものだと思う。会社が社員を採用する過程と特段変わりはない。ちなみに名前自体をAO入試ではなく多面的評価入試とするだけで現実に即したイメージになる。

 世間ではAO入試制度の存置論議は、まだまだホットである。AO入試は主観に陥る面接と論文だけの公平性乏しき欠陥制度というイメージは根強い。

 慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)がこの制度を日本で初めて導入したのは1990年である。この制度が存在する以前に予備校通いを経験し、ようやく入学した難関校を卒業し、社会に出た世代の人たちが「面接、論文主体の入試制度で早慶上智入れます」と耳にすれば、受け入れがたいと感じる面もあるだろう。しかも「ゆとり世代」(小中高で2002、3年度から施行された学習指導要領で育った世代)というイメージが重なると、ますます否定的な態度になりかねない。

 しかしながら、1999年や98年に生まれた今の高校生(脱ゆとり世代である)にとっては、AO入試など生まれる前から存在し、いまでは単なる入試制度の選択肢の一つに過ぎないのだ。私を含めた昭和生まれの世代がAO入試制度について論議する様を彼らは醒めた見つめている。自分にとって利用した方が有利なのか、不利なのかを見ているに過ぎないのだ。

AO入試における評価基準

 AO入試は制度そのものの存在を論議する次元ではなく、大学ひいては社会の中で育てる制度であり、どう育てるかを論議する対象として考えるべきと先述した。そこで多面的評価入試の中で、すでに使用されている評価基準を紹介したい。

 ・ 学校の評定平均4.0以上の獲得(日常的な学問に対する姿勢、学力を判定する)

 ・ センター試験配点6.5割~8割獲得(主要科目の学力を判定する)

 ・ 語学資格の提出(語学力を判定するTOEIC650点以上、TOEFL iBTで61点以上、英検2級以上)

 ・ 小論文試験(自分の意見を適切な書き言葉で論証する力を判定する)

 ・ 英語試験(大学独自の重視するテーマに沿って特別に作れられたもの)

 ・ SPI検査の能力部門相当する筆記試験(大学独自の重視するテーマに沿って特別に作れられたもの)

 ・ グループディスカッション(チームの中で建設的に対話する能力を判定する)

 ・ 講義理解力テスト(教授の講義した内容を誤解なく理解する能力を判定する)

 ・ プレゼンテーション試験(自分の研究したいテーマをパワーポイントなどを使用しながら20分程度で表現する力を判定する)

 ・ 志望理由書の提出(自分が大学で学びたいテーマ、将来ビジョンとは何か、またそれらが自分の人生から必然として生じたという論拠を記したもの)

 ・ 自己推薦書の提出(自分が高校生生活において、どのようなことに対し努力し、挫折をのりこえ、結果として得ることができた社会的評価や精神的な糧を記したもの)

 ・ 活動報告書の提出(ボランティア体験やアルバイト体験など社会的な活動を記したもの)

 ・ 面接試験(生徒の人間性、志に対する熱意と大学の理念との適合を判定する)

 ・ 大学が課す合宿に参加(課題の研究テーマに対する取り組む姿勢を体験させる)

 ・ 実技試験(技術系の学科)

 ざっと見ただけでこれだけの評価基準で大学は一人の生徒に向き合っていくのである。私が多面的という言葉を強調せざるを得ない理由がここにある(点数等は上位校の一般的なもの)。

 確かに学力判定基準が唯一からワンオブゼム扱いになってしまっていることがAO入試反対派の学力軽視の声につながりやすいことはわかる。しかしながら、全体評価における学力判定基準の割合を増やすべきという声に変換すれば事足りるであろう。そしてわたしたちは社会人として、この就職試験と相似形を成したこれらの基準の内実を生徒の実情に合わせて熟成させる義務がある。

AO入試の欠点とは

 わたしたちは学校教育の役割に、リーガルマインドだ、税や保険などに対する知識だ、などと過剰に詰め込もうとしてしまいがちだが、それでは事務手続き作業で疲弊している現場の先生たちはパンクする。この負担の集中砲火を踏まえて欠点を是正するプランを練る必要がある。そして大学もまた、適正な現場の負担環境を狙いつつ、上記に挙げた評価基準の内実を熟成させる矜持を持つべきだ。

 もっとも、全大学の約5割が定員割れを起こしている中、そんな大学の多くが、学力より人物だという、ご都合主義の「理念」で定員を確保するためにAO入試を実施している現実もある。このような理念なき営業制度と堕した状態でも存続できてしまうところは、AO入試制度の最大の欠点と言えるだろう。

 AO入試は大学入試試験の一つであるとして思考を終わらせず、社会の中でバランスよく役割を与え、現在の日本の社会でコンセンサスを獲得した理念の中で、よりよく機能させなければならない。

 ポーランドの社会学者ジグムント・バウマンが『The Art of Life』の中で、こんなことを言っている。

 「価値体系が目まぐるしく変化するリキッドモダニティの時代に生き、待つことができずに、苦しみきることもできずに、手軽さをお金で獲得する傾向を促す消費社会に生きるわたしたちは、幸福を合理的に求めれば求めるほど幸福から遠ざかるパラドックスに陥りやすい存在だ。歴史を尊重し、そのうえで他者に対する責任と苦しみを時間をかけじっくりと引き受けつつ、まっとうする生き方の結果に幸福が訪れる」(筆者による意訳)

バランスのとれた入試に育てる

 このバウマンの提言をAO入試に当てはめれば、大学が求める「主体性、問題解決への強い意識」を持つ生徒を合理的に育てることも大事、もちろん大企業や中小企業、国、NPO、親が求める像も合理的に求めることも大事、それらのバランスがとれた入試として合理的に育てることも大事と言える。

 しかし、それらに捉われすぎてはいけないはずだ。あえて目的合理性から離脱した非合理な世界で長く時間を過ごすことも認めるべきだ。目的とする人材とはかけ離れた、「なんか凄いやつ」という説明不可能な存在も同時に認めることができる入試制度であってほしい。現場でもあえて多様な価値を持つ者同士が長期的に接する非合理な時間と機会を積極的に推奨するべきではないか。

 今日、世間で求められているもののひとつは、間違いなく閉塞状況を打ち破っていくイノベーションであろう。ただ、イノベーションを起こせる存在を育てる目的で作成された合理的プログラムの下だけで、イノベーターは生まれてくるだろうか。そうしたプログラムに収まり切らず、様々な紆余曲折を経た経験を踏まえてこそ、真の意味でのイノベーションを起こしうる人材が生まれてくる可能性もある。この可能性は軽視できない。

 AO入試には、いたずらに目的合理性ばかりを求めるのではなく、より広い視野をでその機能と役割を見極めていくべきだろう。わたしたち教育に関与する人間は、せめてそこまで踏まえて丁寧にAO入試に携わりたい。

     ◇

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佐藤章太郎(さとう・しょうたろう)

株式会社ワカゾウ代表取締役、予備校講師
1973年生まれ。大学時代から予備校で教鞭をとり、現在も大手予備校に在籍。首都圏を中心に7年間教壇に立っている。AO入試担当講師として毎年200名前後の生徒を担当している。政策男子部部員。

 

 

<政策男子部とは?>永田町や霞が関、地域の政策形成の現場を知り、本質的で具体性ある政策づくりに関わってきた20~30代の男子を中心とした部活です。社会を担う責任世代として、私たちは政策を練り、汗を流し、時代の潮流を作っていきたいと志しています。部活を通して、世代や立場を超えた多くの方々と出会っていきたいと考えています。

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