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NHK問題とは何か~公共放送の未来を考える【鼎談】中北徹×林香里×増田寛也(1)

司会:WEBRONZA編集長 矢田義一

 昨年末から今年にかけ、NHKの信頼性が大きく揺らぐ出来事が続きました。元日本ユニシス社長の籾井勝人氏が就任した会長人事のあり方、「従軍慰安婦」「特定秘密保護法」などについての籾井会長の就任会見での発言、都知事選挙などにおける経営委員の言動、さらには番組編成の中立性をめぐっても問題が露呈しました。籾井会長による理事の辞表のとりまとめなど、組織内の異論を封じるような行為も明らかになりました。報道機関としてはとりわけ、安倍晋三政権との距離感の近さが指摘されました。

 その後、ソチ五輪、STAP細胞をめぐる騒動、消費増税、韓国の旅客船の沈没事故、ウクライナ情勢など、国内外の大きなニュースが続くなか、NHK問題はいつしか社会的な関心を集めなくなったようにみえます。しかし、次々に表面化した問題は解決したわけではありません。

 NHKをめぐってはこれまでも、政治的圧力による番組内容の改編や世論調査の結果の報じ方の偏り、制作費の詐取の不祥事など、信頼性にかかわる問題が幾度となく繰り返されていますが、いつの間にか沈静化してきた経緯があります。2005年1月には当時の海老沢勝二会長が前年に続いた不祥事の責任をとって辞任していますが、今回はそのような気配もありません。

 いったいどうすれば、NHKの抜本的な改革がなされ、公共放送としての役割をよりよく果たせるようになるのでしょうか。WEBRONZAでは4月下旬、東洋大学教授の中北徹、東京大学教授の林香里、元総務相で野村総合研究所顧問の増田寛也の3氏による鼎談を行いました。放送法成立の経緯やその意義、それに基づく諸制度、その歴史的変遷などについても視野に入れながら、改革への端緒を探りました。その議論の詳細をシリーズでご紹介します。

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 司会 NHKが揺れています。籾井勝人会長の発言、経営委員である百田尚樹氏の言動などから、NHKの経営のありよう、報道の姿勢等々、大きな問題にはなりました。しかし、NHKという公共放送がこのままでいいのかという真摯な危機感の共有、それに基づく前向きな議論があまり見られないように思います。

 NHKをめぐる問題は、今までも幾度となく間欠泉のように吹き出しますが、その後、抜本的に何かが変わったということはありません。今回も同じような経過をたどる可能性なしとしません。

 そこで、軸足をしっかり据えて、歴史的な視野に立った議論をきちんとする機会を設けられればと、本日の鼎談を設定いたしました。NHKという公共放送の問題点は何か、どう改革してくべきなのか。また、視聴者としてどう対応できるのか。今後の改革への足がかりとなるような議論を展開できれば、と考えております。

 まずは、今年の都知事選挙の期間中、NHKラジオの「ビジネス展望」で原発、エネルギー問題について話そうとして、NHNKから中止を求められ、実際に話す機会を逸するという事態に遭遇した東洋大学教授の中北徹氏から、その経緯を簡単に振り返っていただき、今日の議論の出発点としたいと思います。この件についてはWEBRONZAでも<NHKラジオ ビジネス展望>「原発再稼働のコストと事故リスク」(案)で、紹介した経緯があります。それでは中北先生、よろしくお願いします。

 中北 私の専門は経済学で、このメデイアの分野については専門家ではありませんが、今回の件で、今日のNHKのあり方について一石を投じる必要性を感じ、議論に参加させていただきました。

中北徹氏中北徹氏

 ざっと、その番組の紹介をして経緯を振り返ります。NHKラジオ第一放送の朝に「ラジオあさいちばん」という番組があります。その番組中、午前6時40分くらいから10分弱、「ビジネス展望」というコーナーがあり、私は月1回、木曜日にコノミストという立場から自由にそのときのテーマを取り上げて、私の名前において語っていたのです。

 今回のことは、1月29日、水曜日の午後から夜にかけて起きました。ちょうど都知事選挙の最中でした。私は原発問題、エネルギー問題に関して取り上げたいと考えていたので、ペーパーを作ってその日の昼ごろにメールしたのです。すると、しばらくして、「このテーマは絶対取り下げてほしい。今は選挙期間中なので、どうしてもこれはやめてもらいたい」と電話がありました。そして、「どうしてもやりたいなら、都知事選挙が終わってからやってください。そのときは自由だから」というのです。

 これはかなりの圧力ではないかと思い、そう判断する責任者は誰なのかと担当者に質していきました。そもそも数年前くらいから、どういう体制で番組をつくっているのかもあまりよく分からなくなっていましたが、最後はディレクターだということになりました。放送は翌日30日だったのですが、前日の夜8時、9時を回っても調整がつきませんでした。

 私としては、もう調整がつかないならば、当日に「生」で話そうと腹をくくったのですが、結局テーマそのものがまかりならないということは覆りませんでした。ディレクターに対し、「本当にあなたの判断、NHKの判断ですか」と僕はかなり念を押しました。すると、本当に渋々という感じで、最後になってラジオセンター長という方が出てこられて、基本的には同じことを言いました。でも、僕が何を言っても馬耳東風というか、「今だけは、まあ、ちょっとやめていただきたい」、「終わったらぜひゆっくりお願いします」という感じでした。

 その後、このいきさつをメディアの若干の友人にお話ししましたら、東京新聞は「それは非常に重大なことだ」ということで取り上げてくれました。朝刊一面に出たのです。僕から見ますと、事実関係だけが公正に書いてありました。それはすごくインパクトがありました。ほかの新聞社もすぐそれを引用、キャリーしていただきました。ジャパンタイムスには相当細かく書いていただき、ニューヨーク・タイムズも出ました。私は地球の裏側からずいぶんメールを頂きました。

 その後は特に、もう一応3月31日までのプログラムをもらっていて、2回分残していたので合計3回残していたのですが、すべて不調に終わり、事実上NHKからも何の連絡もありません。私の周囲では、こちらでBPOに訴えたらどうかというアドバイスもありましたが、何も措置を取らずに現在にいたっています。

 司会 番組とのつき合いは長いそうですが、その間に進行の仕方などは変化してきていたのですか。

 中北 番組はアナウンサーとの問答形式で、かつては本当にその時のぶっつけ本番のような「生」でやっていたのです。私が関与したのは20年ぐらい前で、最初の10年間は、非常に牧歌的というか、アナウンサー自身もよく勉強していて、切れのいいやりとりができていました。ですからテーマだけ事前に決めるだけで、その場でやるということでやっていました。

 ところが今から10年ぐらい前からは、徐々にテーマだけじゃなくてアウトラインを事前に明確にしてほしいとことで、紙を出してほしいということになり、5年ぐらい前からは、

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