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ネット業界の苦しい未来像が垣間見える「角ンゴ」

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 角川・ドワンゴの統合の報道に対する、中身まで踏み込んだ評論としては、すでにいくつかに収れんしているように見える。いわく一つめは、10年以上前の文脈のまま「インターネットビジネスは無限の成長を続け、百年来のオールドメディアが駆逐・破壊される流れは素晴らしい」という趣旨のもの。二つめは出版業界の崩壊とネット業界の成熟を前提としつつ、「積極的なコンテンツ・プロデュースとウインドウ戦略の企画力という点で共通のマインドを持つ両社の組み合わせの妙は期待が持てる」という趣旨のもの。三つめはかつてのAOL Time Warnerを引き合いに出して、「こういう異文化の合併は結局文化の違いを埋められずに決裂するものだ」という趣旨のもの、だ。

 また、すでにこの件に関するKADOKAWA会長角川歴彦氏、ドワンゴ会長川上量生氏のインタビューも世に出ており、論じる余地も多くはない。とくに川上氏が日経ビジネスオンライン(6月2日)に語っている本音、すなわち本人は新しいメディアサービスの企画開発に専心したいが創業者として致し方なく前面に出てしまっていて、1+1=3的な企画の生まれる可能性をぼんやりと期待しての経営統合を意図している点は、株式市場の論理ではわかりにくいが、企画ビジネスというものの本質を言い当てたものとも言える。

 筆者は上記二つめの意見に大筋賛成だが、もう一点の視座を提示しておきたい。それは「今さら角川と組まねばならないほどドワンゴは苦しいのか」ひいては「オールドメディアの無形の資産に頼らねばならないほど、ネット業界の先行きは苦しいのか」という趣旨だ。

 すでにインターネットのメディアコンテンツビジネスとしてできることは、たぶん5年前くらいに全部出揃ってしまい、シンクタンクの目線で見ればそのラインナップは2000年を少し過ぎたあたりでもうほぼ全部わかってしまった。テキストから動画までを含めたソーシャルメディアの趨勢も、広告収入に頼らないと収益規模を維持できなくなることも、広告の呼び水になるコンテンツを自社企画する資質を失っていくことも、そのコンテンツを自社企画できるオールドメディアがリッチな職業でなくなりつつも持ちこたえてしまうであろうことも、すべて想定されたことの範囲内だ。

 この2、3年起きていることは単に競合プレイヤーの盛衰(グリー、モバゲー、ミクシィもその前はこの世の春を謳歌していた)であり、日本のネットビジネスの構造がじりじりと世界三大プラットフォーム(Google、Apple、Amazon)に収れんされていく中で、楽天やヤフージャパンが日本風土に合わせた対抗策を試行錯誤中、今回の「角ンゴ」もその一つと見る。

 ネット事業の企画は、見た目にも苦しさを帯びてきている。グリーは

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