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羽生結弦らしさが戻ってきた!(下)――新たなジャンプと「スケートバカ」

青嶋ひろの フリーライター

 闘志が、戻ってきた――そう言ってくれた彼が、頼もしかった。

 周囲の人に聞いたところ、五輪後の混乱の中で「もぬけの殻」だった彼は、スケートをやめたい、と漏らしていたという。やめたい、それができないのならば、せめてこの一年は休みたい、と。その心情の深いところは、これからじっくり聞いてみなければいけないだろう。

 しかしとにかく、しっかり者だといっても、まだ19歳。いきなりオリンピックチャンピオンになり、それに伴う様々な事象にさらされ、平静ではいられなかったはずだ。あれだけの視線を集めたら、めったなことは言えないし、「良い子」でいざるを得なかった。本来ならば鼻っ柱が強くて、多少とんがったことも言って楽しませてくれる彼なのに。

 その彼が、非常事態を耐え抜いて、そのなかでスケートをやめたいとまで思い詰め、でもまたここに、心が戻ってきた――。そのきっかけを、彼に近い人はこう教えてくれる。

 「たぶん、4回転ループでしょうね」

羽生結弦さん=6月26日午後、横浜市拡大朝日新聞のインタビューで=2014年6月26日、横浜市
 彼がハイテンションで成功を自慢した、あのスーパージャンプ。

 フィギュアスケートのジャンプは6種類。トウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの順に難度が高くなる。4回転はトウループ、サルコウ、ルッツのみ公式戦での成功記録がある。

 それが、3月のショーで町田樹の4回転フリップに触発され、4月のショーの練習で成功。

 といってもまだ完璧な回転ではなく、6月に入ってからも「片足で着氷できてはいる」レベルだったという。それがここのところ、本人も納得の回転ができることが多い。 

 「今日も一本だけだけれど、きれいに降りましたよ。4回転ループ! プログラムに入れるかどうかといえば、たぶん入れません。それほどの高確率に仕上げるのは、難しいと思う。僕がプログラムに入れるのは、4回転サルコウまででしょう。でも、サルコウの確率を上げるためにも、自分の4回転の限界ラインを、高めておきたい。そのために4回転のループやルッツにチャレンジしているんです」

 これにはスケート関係者たちも、

 「練習でもループが見られるなんて! 生で見るのは、安藤美姫の4回転ループ以来かな」などとざわめき立っている。

 夢のようなジャンプを掌中のものにして、やっぱりスケートが楽しくなってきた……この単純さがアスリートらしいし、「スケートバカの結弦君」らしくて、なんともうれしくなってしまう。

 また彼自身の語る「闘志が戻ってきた」きっかけも、さらにいくつかあった。

 「被災地訪問を経験したこと」「アイスショー期間中、プルシェンコと話をして、影響を受けたこと」そして、「ショー続きの中、素晴らしいスケーターたちとずっと一緒にいられたこと」。

 注目したいのは、やはり3つめ。4回転ループ成功ともつながるが、切磋琢磨しあう友人のスケーターとともに練習し、競い合うことほど、彼を生き生きさせるものはない。

 今回、無良崇人から聞いた話だが、彼は

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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