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下世話な表現をねらい法的責任を追及する権力--産経前ソウル支局長起訴

川本裕司 朝日新聞社会部記者

 「旅客船沈没事故当日、朴(槿恵)大統領が7時間にわたって所在不明となっていたとする『ファクト』が飛び出し、政権の混迷ぶりが際立っている。……ウワサは、証券街の関係筋によれば、大統領と男性の関係に関するものだ。相手は大統領の母体、セリヌ党の元側近で当時は妻帯者だったという」

 ソウル中央地検は10月8日、韓国の朴大統領の名誉を毀損したとして、産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長を情報通信網法違反の罪で在宅起訴した。報道をめぐる外国メディアの起訴はきわめて異例だ。記事が主として引用したコラムを掲載した朝鮮日報を罪に問わない不公平に加え、取材・報道の自由に対する侵害するという批判の声は国際的に高まるばかりだ。

 韓国検察は、加藤氏はうわさの真偽を確認する努力もせずに書いた、と指摘した。これに対し、8月3日付の産経新聞のウェブサイトに記事を書いた加藤氏は、うわさが広まっていたとし、「それをそのまま書いた」と説明する(朝日新聞10月11日付朝刊)。

 韓国検察の刑事処分に対する不当性に対する主張は、日本の新聞の各紙社説で一致している。ただ、「証券街のうわさ話として朴大統領の男女関係をにおわせた文章には、コラム書きの端くれとして一片の共感も覚えないが、下品でも言論は言論である」(読売新聞10月10日付朝刊「読売手帳」)といったように、産経記事の内容には異論もある。

 米ニューヨーク・タイムズが71年に暴いた米国防総省のベトナム戦争に関する秘密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の掲載を差し止めようと政府が提訴した。ウィキリークスや米国家安全保障局のスノーデン元契約職員がもたらした米外交公電や米英情報機関の内部文書を英ガーディアン紙が2010年、13年にそれぞれ報道したあとは英国警察が同紙コラムニストのパートナーを英空港で拘束した。権力側が明かされたくない情報を暴露されたときは猛反発し、あらゆる手段で報道機関を抑え込もうとする。ただ、十分な覚悟のうえで取材を尽くして政府や情報機関の内実を暴露し世界的な反響を起こしたニューヨーク・タイムズやガーディアンと、地元紙などの下世話なうわさ話を引用した産経新聞とは天と地ほどの差がある。

 今回の産経報道のように、著名人の私生活、とりわけ異性関係を取り上げた結果、法的責任を追及される例は ・・・ログインして読む
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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを経て、19年5月から大阪社会部。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

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